演劇関係者特有の「悪い部分」がふんだんに盛り込まれた作品だなぁ……と言う印象の作品だった。
前回読んだ『クワイエットルームにようこそ』は悪趣味ながらも面白いと思ったものだけど、この作品は駄目だった。
老人賭博
映画撮影の舞台となった北九州の町が、史上最高に心ない賭博のワンダーランドと化す。爆笑がやがて感動に変わるハイパーノベル!
北九州のシャッター商店街に映画の撮影隊がやってきた。俳優たちの退屈しのぎの思いつきから、街は最高に心ない賭けのワンダーランドに。
人の心の黒さと気高さを描きつくす、奇才4年ぶりの小説。
アマゾンより引用
感想
面白くない…とは言わない。「話術」と言う意味では悪くない。テンポも良いし文章も読みやすい。だけど、ものすごく独りよがりで自分ありきな作品だと思う。
お芝居は「このお芝居を観たい」と思って、高いチケットを払うような人達に向けて発信するので、ある程度敷居を高く設定するのはアリだと思うのだけど、小説の場合はそのあたりが違ってくる。そこを無視して突っ走っちゃった感じが鼻についた。
これは『クワイエットルームにようこそ』を読んだ時にも、ほぼ同じ事を書いているのだけれど、今回も同じ事を感じた。
人間の描き方もマズかったように思う。つかこうへいが好んで使っている「思いっきり落として、汚しておいてから、光をあてて輝かせる」って手法が完全に滑っている。
やりたい事は分からなくはない。しかし、あの程度の表現だと感動には至らない。たぶん、突き抜け感が足りないのだと思う。『蒲田行進曲』の銀ちゃんとヤスの境地には至っていない。
老人を笑い者にするなら、その老人がもっと際立ったキャラでなければいけなかったと思う。
そうでなければ、読者は弱いものイジメを眺めているような錯覚に陥ってしまう。題名に老人を盛り込んでいるのに、その老人を生かしきれていないあたりは残念としか言えない。
芥川賞候補にもなっていたとのことだけど、それほどの作品とは思えなかった。松尾スズキの名前がなければ候補にならなかったんじゃないかと思うほど。
個人的に松尾スズキは好きなのだけど、これでは駄目だ。
もうちょっと、ちゃんと読ませて欲しい。色々と残念な1冊だった。