ほどほどに面白かったが、微妙にパンチが足りない感じの作品だった。
物語の筋書きは、ほぼタイトル通り。バイオリンの名器と言われるストラビヴァリの周辺の出来事である。
ナチスドイツが登場するにしては重苦しく感じなかったのは、音楽とバイオリンに魅入られた人々に焦点が当たっていたせいか、それとも時代の描き方が甘かったのか。
音楽が好きな人ならそれなりに楽しめるかも。
総統のストラディヴァリ
日本における天才少女の名声とともに、ドイツへ渡った薫子を待ち受けていたのは、ワーグナーの祭典・バイロイト音楽祭における衝撃の邂逅だった。
総統から贈られた銘器ストラディヴァリ、ヴァイオリン職人のユダヤ人青年、ナチ政権に積極的に加担して行く大指揮者…時代と芸術の間で大きく翻弄される薫子と銘器の運命は。
アマゾンより引用
感想
バイオリニストになるべく英才教育を受けた可憐な日本人ヒロイン(彼女がヒトラーからストラディヴァリを貰い受ける)や、ユダヤ人のバイオリン商など、音楽とバイオリンをこよなく愛する人が多数登場、
それぞれに素敵なキャラクターなのに、主人公級の登場人物を詰め込み過ぎたために、1人1人の印象が薄くなってしまったようだ。
濃いキャラクターが多くても、面白くまとまる場合もあるとは思うのだが、この作品の場合は、完全に作者の筆力が追いついていないような気がした。そ
こそこ面白い要素が多かっただけに残念でならない。
それにつけても「芸術って、なんなんだろう?」というようなことを考えさせられる作品だった。
登場人物達は音楽やバイオリンを愛し、固執するがゆえに不幸の道を驀進していく。
狂おしいほどの情熱を傾けるからこそ芸術の喜びがあると思う反面「人の命より大切なものが、この世の中に存在するんだろうか?」と思ったりした。
この作品はバイオリンと音楽を巡る物語だったが、芸術といわれるもの、あるいは人を魅了してやまない物すべてに当てはまる疑問である。
命よりも大切なものがあるのか?
……なんて書いてみたが、確実に「ある」ような気がする。人間って馬鹿で強欲で、ほとほと嫌な生き物だから。そして、いじらしくて、どうしようもなくて、だからこそ愛らしい生き物だとも思う。
物足りない感のある作品ではあったけれど、ラストはとても清々しくて気持ちが良かった。久しぶりにバイオリン曲を聞いてみたくなる、そんな1冊だった。