フェミニズムな意味合いの強い作品だと聞いていたのだけれど、むしろ雰囲気小説かなぁ……と思って読んだ。
日本人の作家があるドイツの修道院に取材に行くところから物語が始まり、そこで起きた事件について描かれている。
作者の言いたいことは理解できなくもないのだけれど、描写が淡々としていて独特の空気感のある雰囲気小説として読ませてもらった。
ちょっと大崎善生の描写に通じるものがあるようにも思う。
尼僧とキューピッドの弓
ドイツの田舎町に千年以上も前からある尼僧修道院を訪れた「わたし」は、家庭を離れて第二の人生を送る女性たちの、あまり禁欲的ではないらしい共同生活に興味が尽きない。
そんな尼僧たちが噂するのは、わたしが滞在するのを許可してくれた尼僧院長の“駆け落ち”という事件だった――。
アマゾンより引用
感想
物語として面白い作品だとは思わなかったけれど、私はキリスト教にもドイツの生活にも詳しくないので「異国の習慣を知る」という意味で面白かった。
修道院と聞くと、未婚だろうが既婚(だった人)だろうが、人生のすべてを信仰に費やす覚悟をした人がいくところだと認識していたのだけれど、この作品で描かれていた修道院はまったく趣が違っていた。
一種のグループホームのような…女性専用の老人ホームのような印象で、宗教色が極めて低いのだ。
もちろん宗教的な匂いが全くないわけではないのだけれど、たいていの日本人が連想するであろう修道院とは全く違っていて、一種のカルチャーショックを受けた。
端正な文章でとても読みやすいし「女性の老後」について考えさせられる作品だと思う。
異国の習慣学ばせてくれる作品でもあり、読み物としては悪くないのだけど、どこか中途半端な印象を受けた。
たぶん、色々と優れた面もあるのだけれど、突出した物が無いからだと思う。もしかしたら、単に私の感性に沿ってこなかったから、この作品の良い部分を見切れていないだけかも知れないのだけれど。
作品としては物足りなかったものの、多和田葉子は興味深い文章を書く作家さんだと思うので、とりあえず他の作品を読んでみようと思う。