売れない役者をしながら介護の仕事をする主人公の成長と障害者の性について書いた物語。
なんだかすごく「いいもの読んだ」という気持ちにさせられたのだけど、今のところ(2009年8月現在)巷ではそれほど評判になっていないのが不思議だ。
エレクトメンズ・パレード
「障害者がSEXして何が悪い!」ケアホームで障害者介助を行う35歳の田中は、脳性麻痺のため50歳で童貞の辰郎さんと出会う。
ある日、二人はセンター長の目を盗み、風俗のメッカ・歌舞伎町に向かった。初体験を前に目を輝かせる辰郎さんだったが、そこで目にしたのは、彼の夢を打ち砕く障壁の数々だった!
辰郎さんの願いを叶えるべく田中は奔走するが……。50歳の男の姿を瑞々しいタッチで描く中年青春小説。
アマゾンより引用
感想
物語の軸は2つ。1つは「こんなことしてちゃダメだ」と分かっているのに、現状から抜け出すことの出来ないでいた主人公の成長。
主人公の駄目っぷりは読んでいてイライラさせられたりもしたけれど「それって、ちょっと分かるかも」と感じるところがあったのは上手いと思う。
たぶん主人公がなんだかんだ言って「イイ奴」だったからだと思う。
そしてもう1つの軸は障害者の性。
この物語の中で起こる最大のイベントは重度の障害を持つ童貞男性を主人公が風俗店へ連れて行くことなのだけど、この話がなかなか良い。
障害者が性生活を楽しむことの困難さを描こうとすると、どうしても「文部省推奨」のような説教臭さが出そうなものなのだけど、ものすごく重たいテーマを上手いこと描いていた。
もちろん現実からすると夢物語的な要素が無いではなかったけれど、哀しくも面白く、そして「良かったね」と思えるような話に仕上がっていた。
作者の杉浦昭嘉はピンク映画を作る仕事をしていたとのことだけれど、その辺の経験が良い感じで生かされていたのかも知れない。
「せっかく人として生まれたのだから死ぬまでに1度くらいセックスがしたい」と言う思いが痛いほど伝わってきて、泣きそうになってしまった。
なんだか、こんな風に書いてしまうと、ものすごく真面目で感動的な物語のような印象を与えてしまうかも知れないけれど、この小説はある意味において青春小説なのだと思う。
主人公は30代の男性。そして副主人公の男性は50歳。
「青春」を語るには、年をとり過ぎているのかも知れないけれど、彼らは少しばかり遅い青春を謳歌していたと思う。
性を描いた作品なので好き嫌いはあるだろうし、楽しいだけの作品ではないけれど、爽やで気持ちの良い作品だと思う。