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庭のつるばら 庄野潤三 新潮社

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美味しい紅茶を飲みながら、ゆるゆると読むのが似合いそうな作品だった。

子供達が自立して、夫婦だけの生活を描いたエッセイちっく小説だった。庄野潤三の作品は『貝がらと海の音』を読んで、辟易した覚えがあるのだけれど、今回はスムーズに読むことができた。

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庭のつるばら

丘の上に二人きりで暮らす老夫婦と、子供たちやたくさんの孫、友人、近所の人たちの心温まる交流。妻の弾くピアノの練習曲、夫の吹くハーモニカの音色。孫たちが飼っている小動物、庭に来る小鳥、そして丹精されたつるばら。どこにもある家庭を描きながら、日々の生活から深い喜びを汲み取る際立った筆致。一貫して「家族」をテーマに書き続けて来た、庄野文学五十年の結実。

アマゾンより引用

感想

私が憧れる生活が、そこにはあった。

美味しいものを食べて、季節の花を愛でて、日々の暮らしや人々に感謝する……そんな生活。

そこには、病気の人も、心を病んだ人もいない。生活苦とか、不倫とか、諍いとか、リストラとか、そういう陰気な事柄は、いっさいない世界なんである。

ただ、ゆるゆると幸せで、あたたかな時間が過ぎてゆく……といった感じなのだ。

いつもの調子なら「そんな生活は夢物語で、ありえない。リアリティに欠ける」と言ってしまうところなのだが、ここまでスタンスを貫かれると賞賛するより他にない。

素晴らしい……素晴らしい世界だ。

庄野潤三は「文学界の長谷川町子」だと思う。

言っちゃあ、なんだが、そんなに美しい生活ってのは、存在しないと思うのだ。どんなに恵まれた環境にあったとしても、それなりに憂鬱なことや、嫌なことはあると思う。

だが、しかし。あえて、そういう事柄は無視して「素敵なこと」だけを抽出しちゃうあたりに感服してしまった。『サザエさん』の世界が、どこまでいっても完璧であるように、庄野潤三の作り上げた世界も、完璧だと思う。

作品とは関係のない話だが、作中に作者の老妻がピアノを習っている話題が、しょっちゅう登場する。彼女はブルグミュラーだの、ツェルニーを弾いているらしい。

私はピアノを弾かなくなって何年も経つのだが、ブルグミュラーの曲名を聞いただけで、今でもちゃんと旋律が歌えることに感激してしまった。懐かしいなぁ……またいつか、遠い日にピアノを弾くこともあるだろう。

親しい友人にプレゼントしたいなぁ……と思う作品だった。

美味しいものを食べて、季節を愛でて、人と和して生きるのが、人間の幸せだよねぇ……と思える作品なのだ。

もちろん、理想の世界であって、実現できるかどうかとなると、それはまた別の話だけれど。

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