沢木耕太郎が自らの父を小説家した作品だった。
父を看取りながら、父の人生を振り返る……というスタイルで、良くも悪くも「普通」な感じがした。そこそこ面白かったが、突出して良かった部分がなかったので、読後の印象が薄い。
しかし流石は幻冬舎。売り方と帯の作り方は素晴らしかった。他の出版社から抜きに出ている。
幻冬舎と言うと、初めて田口ランディが平積みされた時は「上手いよなぁ」と心から思ったものだが、最近は売り方がいっそう嫌らしいように思う。
盗作騒動の対応が悪かったので、その分イメージが下がっているというのも多いに影響しているのだが。
無名
一合の酒と一冊の本があれば、それが最高の贅沢。
そんな父が、ある夏の終わりに脳の出血のため入院した。混濁してゆく意識、肺炎の併発、抗生物質の投与、そして在宅看護。病床の父を見守りながら、息子は無数の記憶を掘り起こし、その無名の人生の軌跡を辿る―。
生きて死ぬことの厳粛な営みを、静謐な筆致で描ききった沢木作品の到達点。
アマゾンより引用
感想
この作品を読んで感じるのは、何をおいても「沢木耕太郎が抱く父への愛」だと思う。
沢木耕太郎はすくすくと素直に育った人なのだろうなぁ。
両親への尊敬や愛情が、素直に書けるタイプの作家さんって、ちょっと珍しいんじゃなかろうか。両親に対する気持ちって、感謝や尊敬よりも葛藤や反発が勝っている人の方が多いような気がする。
ちなみに私自身は後者である。なので、成人してもなお、迷うことなく自分の両親が好きだと言える人には、ちょっとしたど憧憬を感じる。
こじつけかも知れないけれど作者が『檀』で描いた檀一雄も、自分の父親のイメージを重ねているような気がした。どこか同質なものを持つ男のような。
沢木耕太郎の描く男臭い男って、好きだなぁ。ちょっと酸っぱい匂いがする。
現代の若い男性像とは、ひとあじ違うダンディな男。そして破天荒そうに見えて、あんがい常識人だったりするところも面白い。
沢木耕太郎は心底「男」が好きなんたろうなぁ。
沢木耕太郎を読むキッカケになった『檀』の主人公は檀一雄の妻のヨソ子なのに、ヨソ子よりも檀一雄の方が華やかに描かれている。
しかし残念だが、今回の作品は身内びいきが鼻について沢木耕太郎の描く「男」の良さを素直に楽しむことが出来なかった。
図書館で借りて正解だったな……と思った1冊だった。