私は河野多惠子を知ってからと言うもの、ずっと好きでいるのだけれど、いま敢えて言いたいことがある。
「河野多惠子の作品って、実はけっこう面白くないよね」と。
刺激的に読ませる物語もあるのだけれど、短編になると吉村昭級に地味だと思う。しかも、読者に努力を強いる。いったい、どこに魅力があるのか?
実は面白くない作品だったら読まなければいいのに、どうして読まずにはいられないのか?
逆事
NY暮らしのなか、ふいに甦る亡き異母妹の言葉と、濃やかに気遣ってくれた継母のこと―。(「いのち贈られ」)。
マンションという日常空間に潜む闇。(「その部屋」)。
語られぬまま過ぎてゆく夫婦の時間。(「異国にて」「緋」)。
先に逝った人々の面影を辿り、生と死の綾なす人間模様を浮き彫りにする表題作。(「逆事」)。
人の世のミステリー。魅惑の河野ワールド。
アマゾンより引用
感想
河野多惠子の作品には中毒性があると思う。
例えるなら、アルコールを飲んでいる時、それほど美味しいと思っているわけではないのに「そこにあるから」って言う理由だけで柿の種やスルメをつまんでしまって、1度つまんだが最後、無くなるまで食べ続けてしまうあの中毒性と似ていると思う。
今回の短篇集も「実はけっこう面白くない」タイプの作品ばかりだった。
テーマもなんだかどうでもいいような話ばかり。人の死に潮の満ち引きが関係しているとか、どうとか。マンションの住人が飛び降りる話とか。
人によっては「そんなこと、どうでもいい」とか言いようがない話のオンパレード。
だが、そこがいい。
そのコダワリがピタッっと合致すれば、これ以上ない面白さだと思う。文章の世界に酔わせてくれて、一瞬トリップさせてくれる作品ばかり。
ただ、残念なことに河野多惠子がぶつけてくるテーマは決して趣味が良いとは言えないものばかりなので、人にはなかなか勧めにくい。
私はこのサイトをはじめたおかげで、未知の方からメールを戴く事があるのだけれど「河野多惠子のファンです」と言う方は一人もいなかったし、私の身近にも河野多惠子ファンを名乗る人はいない。
本が売れているってことは、間違いなく一定層のファンがいると思うのだけど、彼らはいったいどこにいるのだろう? ひっそりと河野多惠子の世界を楽しんでいるのだろうか。
ひっそりと一人楽しむのに相応しい読み甲斐のある1冊だった。