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秘事 河野多惠子 新潮社

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今回の感想はちょっとだけ「ネタバレ」あります。未読で「ネタバレ」が嫌な方はご遠慮ください。

地味な…ひたすら地味な文章でもって語られた「ある夫婦」の物語だった。

一部の読書好きの間では、かなり評価が高かったらしい。とりわけ、少し高めの世代での支持があったのは長い年月を連れ添っていった夫婦の物語であったからだろうか?

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秘事

楽しみにしていてくれ。僕の臨終の時には、素晴らしい言葉を聞かせるから-。夫は妻に何を伝えようとしたのだろうか。

綜合商社の役員・三村清太郎と妻・麻子は人も羨む仲だったが、その結婚にはある事故が介在していた。

アマゾンより引用

感想

物語は「夫」の一人語りという形ですすめられていく。夫婦の出会いから、はじまって、妻の死で終わるその物語は、すべり出しのインパクトの後は、うんざりするほど単調だった。おおまかなストーリーは、こんな感じ。

「ごく、ありきたりな恋人同士」として付き合っていて「いつかは結婚しよう」と考えていたカップルがあったのだが不慮の事故で、女性は顔に傷を負ってしまう。

「同情や責任感から結婚するのでは?」と周囲が思っている中で男性側のアプローチにより2人は目出度く結婚。結婚後は「ありきたり」な夫婦の生活が営まれてゆく。子供が生まれ、成長し、夫婦も老い、そして死んでゆく……ってな感じ。

ちなみに小説の題名となっている『秘事』とは主人公の「夫」が、ずっと連れ添った妻に対して、秘めていた気持ちのことである。

私ははあんたとひたすら結婚したくて結婚したんだぞ。侠気や責任感そんなものはみじんもなかった。

夫の「ひめごと」を引っ張るためだけに、長々と書かれた小説だと言っても良いと思う。

それほど、夫は妻を愛していたのだから。それゆえに「この小説は淡々と夫婦愛を描いた美しい小説である」とて評価されることが多いのだが、それについて私はまったく別の考え方をもっている。

『秘事』は夫婦の愛を描いた小説であることに間違いないがそれは淡々と美しい愛というより、むしろ「静かなSM小説」だと感じたのだ。

似た系統の小説で思い浮かぶのは、谷崎潤一郎『春琴抄』あたり。

鞭で叩くとか、縄で縛るといった、肉体的なプレイだけがSMの関係ではなくて「嗜虐・被虐」の関係がSMだとするなら『秘事』も立派なSM小説だと言えるだろう。

夫の、ひたむきな愛に目を奪われがちになり妻の気持ちは、うっかり置いてけぼりになりがちなのだが作品を、じっくり読んでみると夫と妻の気持ちには大きな隔たりがあるのだ。

夫は間違いなく妻を愛して結婚したのだと思われるが妻は「結婚してもいいかも知れない」あるいは「一緒にいてもよくってよ」的なところがある。

夫を嫌ってはいないが夫を愛してもいないこということが小さなエピソードの積み重ねからも、充分にうかがうことができる。

それどころか顔に傷のある自分と結婚してくれた夫に対して普通なら「感謝」や「負い目」を感じるだろうところを「当たり前」のこととして受け止めているあたりは、なかなか天晴れといった感じである。

一見すると派手ではないが「主従の関係」なのだと私は思った。

それにしても単調で、読みにくいのにはうんざりだった。

少しくらい読者に媚びてくれても良さそうなものなのに「読みたい方だけ、お読みになればよろしいのよ」……ってな姿勢で書いているのだろうか?

最後まで頑張って読んで、やっは「ご褒美」を与えられた……という読後感だった。

河野多惠子は読者に対しても女王様体質なのだろうか???などと、思わず下世話なことを連想してしまった。

ちなみに河野多惠子は「いかにも」な小説も執筆しているので興味がある方は是非読んで戴きたいと力強くおすすめしたい。

「いかにも」って形で求めようが、そうでなかろうが人間の欲望なんてのは、大差ないんだよね……と思った1冊だった。

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