時間を巻き戻す……という方法でもって壊れた「物」を修理する「よろずお直し業」を営む主人公の旅を描いた短編連作集。
一話完結だが大きな物語もあり最終回でとりあえず謎が解けるようになっている時代劇方式。
ジュニア向けのファンタジーにしては渋すぎるし、大人が読むには軽すぎるという印象を受けた。
よろずお直し業
あなたの大切なもの、こわれていませんか?思い出の彫刻、名酒の壷、恋人からの手紙…一度こわれてしまったものは、なんでも、すべてお直しいたします。
目には見えない命のねじを、目には見えない心の指で、くるりくるりと巻き戻す。そうすれば、ほら全部、もとどおり―。
たった五年分しかない思い出だけを胸に秘め、サバロは、あらゆるものを直し続ける。自分自身の心臓のねじを、毎日毎日、すこしずつ巻き戻しながら…。
アマゾンより引用
感想
主人公が若者ではなくて、けっこうなオヤジなのだ。ジュニア小説にしては渋い設定だと思う。しかし話は若干軽い。
ここはジュニア小説だから仕方ないと言うべきか。
1つ1つの物語は上出来過ぎといっていいほど出来すぎているし、とても良い話が揃っていると思うのだが、説教臭さが鼻についてしまった。道徳の教科書じみているのだ。
「やっぱり愛だよね。愛」とか「家族って素敵」とか「信義ってなんだろう」なんてテーマをストレートにぶつけてくるなら、遠慮して柔らかい調子で書くよりも、むしろ、ぶっちぎりで「泣かば泣け」と表現した方が、かえって良いように思う。
馬鹿過ぎるくらい馬鹿な方が、読んでいて恥ずかしくなくて良いというか。
たぶん、その方式で成功しているのが浅田次郎ではなかろうか。彼の作品も一歩間違えば道徳の教科書風味になりがちなテーマばかりだもの。
もちろん、そういった作風でなくとも、説教臭くなく書くことも可能だと思うが、そういう作品には、なかなかお目に掛かれない。
上手いなぁ……と思ったのは「見えないネジを巻いて時間を巻き戻す」というシュチュエーションを小説に持ってきたという点である。
漫画やアニメでは描き尽くせないイメージだと思うのだ。見えないネジは個々の読者のイメージの世界の数だけ存在するということだ。
そこそこに面白かったが、ジュニア小説の悪い面(ツッコミの甘さ等)が作品の可能性を押しつぶしてしまったように思う。
良い物を感じただけに、その出来栄えでは惜しいとと思った1冊だった。