在宅医療(終末期医療)がテーマの短編小説集。
医師である久坂部羊が在宅医療に従事していた時の体験を元に書かれたものとのこと。
登場人物達にはそれぞれモデルがいるようだけどれっきとした小説。
ただ、リアリティに溢れているので読んでいて相当キツイし結構グロい。精神的に参っている時には読まないことをおすすめしたい。
いつか、あなたも
在宅医療専門クリニック看護師のわたし(中嶋享子)と新米医師の三沢、クリニック院長の一ノ瀬らが様々な患者本人と家族、病とその終焉、そして安楽死の問題にも向き合う。
「綿をつめる」膵臓がん患者の60代女性が亡くなった。わたしは三沢に死後処置――遺体に綿をつめる作業を教えることに――。
「いつか、あなたも」在宅医療は老人ばかりではない。26歳の女性患者は統合失調症に見えたが、症状は複雑だ。その女性がわたしに投げかけた言葉「いつか、あなたも」の意味は――
アマゾンより引用
感想
語り手は在宅医療のクリニックに勤務する看護師。ベテランの院長と新人医師の元で働く。
在宅医療と言っても色々なパターンがあり、認知症で寝たきりの高齢者もいれば、末期のガン患者もいる。死ぬことが前提の医療なのでどの話も暗いし陰気だしやり切れなさが残る。
ただ、どの話も「私には関係ない」とは言えない。題名になっている『いつかあなたも』ではないけれど、死は誰にでもも訪れる。
キツイ話ばかりではあるけれけど作品に登場する人達はそれでも良いケース(一部例外アリ)なのだと思う。
クリニックに勤務する医師達は誠実で信頼できるし語り手の看護師もプロ意識が高い。現実はなかなかそうもいかない。
実際、この作品の中でも「こんな医師にかかりたくないな」と言うような医師が登場している。自分や自分の家族が死ぬ時は出来るだけ楽であって欲しいと思うし、そうでないならせめて少しでも良い環境で…と思うのだけど、こればかりはなってみないと分からない。
実のところ「家族や看護する人の努力もあるけれど運もあるよね…」と言う気がしている。
どの作品も重たくて「私だったら…」なんて事は軽々しく口に出来ない感じがする。「看取りの形は色々なのだなぁ」と思うばかりだ。
私自身、母達の介護が目の前にぶら下がっている状態で終末期医療についても他人事ではない。
それだけにこの作品のリアルさは嫌な感じでもってグイグイと迫ってきた。ただこの嫌な感じは「面白い」とも言える嫌さなのだ。
楽しい話ではないけれど、中高年層の人には是非オススメしたい。嫌な話のオンパレードだけれど、どれをとっても「私は関係ない」とは言い切れないのだから。
そして最初にも書いたけれども、もし読んで戴けるのなら気持ちが元気な時に。落ち込んでいる時にはオススメ出来ない。
考えさせられるところの多い良い短編集だと思う。