『山谷崖っぷち日記』は開高健賞受賞のエッセイ。夫に勧められて手に取ってみた。
作者は大学卒業後、会社勤めに挫折して転職を繰り返し、日雇労働者になった人とのこと。山谷の簡易宿泊所で生きる日々を綴った作品。いっき読みしてしまうほど面白かった。
山谷崖っぷち日記
- 開高健賞受賞作。
- 大学卒業後、会社勤めに挫折し、釜ヶ崎で労務者になった著者は山谷にやって来た。
- たたみ一畳のベッドハウスに泊まり、現場仕事をし山谷で暮らす日々を描く。
感想
山谷と言うのは大阪で言うと釜ヶ崎のような地域で、ホームレスや日雇い労働者が集まっている地域らしい。
山谷(さんや)とは、東京都台東区北東部にあった地名。
現在の清川・日本堤・東浅草付近を指した。一時期、遊廓が置かれたことから、吉原遊廓を指す場合もあった。
安宿が多かったことから労働者が集まるようになり、東京都台東区・荒川区にある寄せ場(日雇い労働者の滞在する場所、俗に言うドヤ街)の通称(旧地名)として使われる様になった。
Wikipediaより引用
年末になるとTVニュースで「ホームレス達への炊き出し」なんかが放送されるが、そんな光景をイメージしたら良いのかも。
実際に中へ入ることの無い世界だけれど、ありきたりな社会人生活を送っている人間としては、いささか羨ましくも思ったりする。
日雇い労働者の観察日記と言うのか、色々な人の生き方が面白かった。そして「人はここまでエゴイストに徹することができるのだ」と感嘆せずにはいられなかった。
「知らない土地のことを知る」と言う意味ではかなり面白い作品だと思う。
鳶は山谷の貴族である。ヨーロッパの貴族と庶民が外見からも区分できるのと同じような意味で、鳶と土工もおおよそ外見によって(体格というよりも風貌によって)区分し得るように思われる。鳶として仕事上の能力をつくりあげるまでの錬磨と、その能力を他人から承認されているという自信が、鳶たちの風貌を引き縮め、その表情にある種の余裕をも与えているのであった。
『山谷崖っぷち日記』より
高校を卒業して、大学に言って、会社で働いて、結婚して…みたいな人生を送っている人間からすると、山谷の人達の生活は別の国の生活を読んでいるような錯覚に陥る。
その日、その日を自分のことだけ考えて生きる…って、どんな感じなのだろう。
なゆきまかせに生きる…と言っても、完璧に天涯孤独の人でもなければ、自分と係わりのある人のことを、少しでも思えば、なかなか「自分さえ良ければいい」というような暮らしは出来ないものだ。
心底羨ましいような気がする反面、それではイケないような気もする。
どういった生き方が正しいとか正しくないとかそういう問題ではなくて、結局のところ人間は「自分が生きているスタイルでしか生きられない」のだろう。
自分の意思で選び取れる道もあると思うが、それ以外の何か別の要素があるような気がしてならない。
作者の生き方は面白いと思ったけれど、その思想は賛成出来なかった。
「することはしないが、要求は一人前」というような印象。
開高健賞の選考会で、この作品を「現代の方丈記」と称されたらしいが、文学的な要素は低いように思う。色モノの域を出ないと言うか。
自分の生き方や生活を見つめなおすキッカケとして読むには良い作品だと思った。
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