大崎善生の作品は、何かと好きだ。行き場の無さ加減がシミジミとよい。
何冊か読んでみたけれど「ああ良い作品だった」と思うことが多い。なのに、ふり返ってみると、一部の作品を除くと作品の内容だの、文章の一節だのを、ほとんど覚えていないことが多いのだから不思議だ。
ちっとも頭に残っていかないのだ。
大まかな筋書きは覚えているが、詳細はサッパリ覚えていないのだ。それぞれに違う作品なのだが「どれを読んでも一緒」というノリがあるのも事実だと思う。
そして今回の作品も、すぐに忘れてしまう気がする。
ロックンロール
小説執筆のためパリのホテルに滞在していた作家・植村は、なかなか筆の進まない作品を前にはがゆい日々を送っていた。しかし、そこに突然訪れた奇跡が彼の感情を昂ぶらせる。透き通るような青空の下で、恋が動き出そうとしていた。ポケットに忍ばせたロックンロールという小さな石ころのように、ただ転がり続ければいい。作家は突き動かされるように作品に没頭していく―。欧州の地で展開される切なくも清々しい恋の物語。
アマゾンより引用
感想
そんなに印象が薄い物語なのに、読んでいる最中は「いいなぁ」と思うのだ。吸収力抜群と言うのだろうか。
スポーツ飲料のように、スーッっと身体に染込んできて、スーッっと排泄してしまう感じ。ちなみに「染込んでくるもの」とは、孤独感である。
何冊か読んでみて思うに、大崎善生者の描く主人公はみな孤独なのだ。恋愛をしていても、仕事に熱中していても、とにかく「淋しい」という感情を抱えて生きているように思う。
行き場のない淋しさを、持て余しているような。その持て余しているところが、自分とシンクロするらしくて、けっこうハマる。
感覚的な部分では非常に惹かれるのだが、しかし説得力に欠ける部分があるのも事実だ。
平たく言えばオチが無い。そして希望もない。
「だから、どうした?」と突っ込みを入れてしまいたくなるほど、行き場のない話が多い。この作品も、そんな感じだった。決してアンハッピーではなかったのだが、どこか納得のいかない読後感なのだ。
これからも新刊が出たら読んでしまうだろうけれど、次の作品を読む頃には、この作品の内容は忘れちゃっているのだろうなぁ……と思う。
頭の中に残っていくだけか読書の醍醐味ではないので、これはこれで良いかもと思う1冊だった。