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九月の四分の一 大崎善生 新潮社

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なかなか面白かったし良い作品だと思った。短編小説が4本収録されているのだがハズレが無かったように思う。

もちろん「ものすごく良かった」というのと「まあまあだった」というくらいの違いはあるのだけれど、短編小説集で「全部面白かった」というのは案外と行き当たらないので、なんだか嬉しい気分。

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九月の四分の一

逃げるようにして、僕はブリュッセルへ辿り着き、世界一美しい広場で、ひとり悄然としていた。潰えた夢にただ悲しくてやる瀬なくて。そこで奈緒と出会った。

互いの孤独を埋めるような数日間を過ごし、二人は恋におちるのだが、奈緒は突然、姿を消した。曖昧な約束を残して(表題作)。

――出会いと別れ、喪失と再生。追憶の彼方に今も輝くあの頃、そして君。深い余韻が残る四つの青春恋愛短篇。

アマゾンより引用

感想

初めて読んだ『アジアンタムブルー』は、巷では好評のようだったが、私はそれほど好きになれなかったのだ。技巧的過ぎるというか、上滑りな感じが気に食わなかった。

「上手いなぁ」と思わせてくれることと「面白かった。読んで良かった」と思わせてくれることは、まったく別次元のお話である。

もしかしたら、この作品の場合は私小説の要素が強かった分だけ気負いのようなものが抜けて、のびのびと書かれたのではあるまいか。

どことなく作品全体に「のびやかさ」のようなものを感じた。

私小説の要素が強いと書いたけれども、作者がたどってきた軌跡が断片的に垣間見えるという程度で、あくまでも作り話である。

しかし小説が書けなくて試行錯誤していたデビュー前のエピソードなどは、多分に作者の思い入れが投入されているように思った。

日本の文学は私小説が巾をきかせていると言うけれども、実際その通りだと思う。「私小説万歳」とは思わないが、自分の内面を掘り下げられないようでは、他人を描くなんてことは出来ないんじゃないかと思ったりする。

どの作品も40歳の「僕」が主人公なのだが、40歳という年齢がものすごく生きていた。まだまだ何でもやれる年なのに、ふと立ち止まったり、簡単に物事を投げ出してみたり。

私はまだ30代で実感がないのだけれど、40歳という年齢は若さと老いの狭間にあって、揺れるお年頃なのかも知れない。

「僕」と関係したヒロイン達もなかなか良かった。やや「男性作家の描いた実態のない夢の女性という印象ではあったものの、主人公を引き立たせるのなら、あれで充分だと思える。

ただ表題作のヒロインは好きになれなかった。私は他人を試すようなことをする人間って好きではないのだ。ましてや自分のことは自分で決めなきゃ。

ただ岐路に立った時、何かに賭けてみたくなる気持ちは分からなくもないが。

大崎善生、いいなぁ。1作ごとに上手くなっているような気がする。私は断然応援しちゃうな。

新刊は図書館で予約して読むようにする! そしてハマれば購入する!

追いかけることが出来る作家さんに出会えてとても嬉しい。

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