『明日の食卓』は3人の母達の物語。彼女達の共通点は「イシバシ ユウ」と言う同じ名前の9歳の男の子を育てている…ってこと。
同姓同名と言うだけで、彼女達は面識もなくそれぞれに違った境遇で子育てをしている。
子ども達もそれぞれ違う性格で全く違う3つの物語の集合体なのだけど「子育ての悩み」という大きな柱があって、その柱を軸にして話が進んでいく。
明日の食卓
静岡在住、専業主婦の石橋あすみ。神奈川在住、フリーライターの石橋留美子。大阪在住、シングルマザーの石橋加奈。
小学3年生の「石橋ユウ」を育てるそれぞれの母親たちは、慎ましくも幸せな家庭を築いていたが、些細なことをきっかけに、その生活は崩れ始める。
そんなある日、「イシバシユウ」虐待死のニュースが報道され―。
アマゾンより引用
感想
椰月美智子の作品を読むのはこれで3冊目だけど「物語を作るのが上手い人だなぁ」と感心する。
桐野夏生的上手さ…と言えば良いかも知れない。
とにかく先が気になるし、文章も読みやすくてサクサク読み進める事が出来る。
読んでいてスピード感があるのが心地良いし、読書を娯楽として考えるなら、かならコストパフォーマンの良い作品だと思う。
私自身、もうすぐ9歳になる女の子を育てているので、3人の母達の苦悩に共感出来た…と言いたいところだけれど、実のところ全く共感出来なくて困惑してしまった。
男の子と女の子とでは子育てと言っても悩みどころが違うと言う部分も大きいとは思うのだけど、それ以上に女性として主人公達に寄り添う事が出来なかったのだ。
唯一、応援出来たのはシングルマザーの加奈。
ネイティブ関西人から言わせると、謎な関西弁は読んでいて不愉快ではあったものの、登場人物の中では唯一まともな母親だと思った。
それにしても、この作品の中の関西弁は酷い。昭和40年代ならまだしも、あんなやりとり吉本新喜劇でしか聞いたことないとレベルだ。
作者は神奈川県の小田原出身とのこと。関西弁を喋る加奈の周辺は妄想の関西ワールドでしかない。
登場人物の誰にも共感出来なかったけれど「こういう人って、いそうだなぁ」とは思った。
たぶん桐野夏生のレベルまでは人物が突っ込んで描けていないのだと思う。「こういう人って、いそうだなぁ」とは思うものの「あ。これ、私の知ってる人に似ている!」ってほどではないのだ。
話の持って行き方が面白いだけに、そこが残念。
あと、登場する男性陣がことごとく駄目人間なのもどうかと思った。あんなタイプの父親がいるのは承知しているし「よくある男性像」ではあるのだけれど、揃いも揃って…では、嘘っぽい感じになってしまう。
あれこれ文句を付けてしまったけれど「ここが惜しい!」とダメ出ししたくなるくらい面白い作品だったのだ。新作が出たら追っていきたいと思うほどに。
出来れば次は群像劇ではなく『伶也と』で読ませてくれたようなタイプの、1つのこと、1人の人間を突き詰めた作品を読ませて欲しいな…と思う。