東日本大震災をテーマにした震災文学。
熊谷達也は宮城県出身。思い入れたっぷりの作品で読んでいて非常に辛かった。
実は前知識が全くないまま図書館で「表紙惚れ」して借りてきた1冊。題名を見て「海が好きな主人公の青春物語かな」なんて思って気軽に借りた。
実際「海が好きな主人公」と言う部分だけは当たっていたけれど、青春物語でもなんでもなかった。
潮の音、空の青、海の詩
仙台市内で被災した予備校講師・聡太が、避難所での友人との再会や、日常の復活の中で被災の深刻さを実感していく過程などを描く現在――。転じて60年後、再度の大津波に見舞われた仙河海市を舞台に、防潮堤や放射能廃棄物の受け入れなどを描く未来――。現在と未来の視点を交錯させながら、復興に生きる人々を迫真の筆致で描く物語。
アマゾンより引用
感想
東日本大震災と言っても私は関西に住んでいて被害を受けず、あの時はまったく別世界の出来事のようにテレビの画面を唖然として見ていた。
津波があれとほ恐ろしい物だとは思ってもいなかったし、ニュースで流れてくる光景はいままで想像もしたことが無かった。
……とは言うものの、関西にも東北出身の人はそれなりにいて、実家が被災したという人が精神的に不安定になって大変だった事を記憶している。
その人の実家は流される事なくご両親も無事だったのだけど故郷が壊滅状態になってしまった事がキツかったらしく、傍で見ていても気の毒なほど憔悴していた。
この作品の中でも主人公自身は仙台市で被災していて、宮城県の沿岸部に住む主人公の両親は津波で流されている。
主人公はなんとか営業しているスーパーで物資を買って故郷に両親を探しに行くのだけど、このくだりは読んでいるだけで泣けてくる。
そして、あんな状況でも秩序を守って、助け合う人達の姿には感心させられた。実際は綺麗事だけでは済まされない部分もあっただろうけれど、強力しなければ大変な局面を乗り切っていけなかったのだろうな……と思う。
作品の最後で「絆」と言う言葉が取り上げられるのだけど、これは阪神淡路大震災の時にも使われた言葉だ。
阪神淡路大震災があった時、私はまだ20代で「絆」と言う言葉の意味が本質的な部分で理解出来ていなかった。だけど40代になった今は分かる気がする。
人間って1人で生きている訳じゃない。色々な人に助けられるものだし、他人から気遣ってもらえるのって本当に嬉しい。大変な時こそ人と人との繋がりってありがたく感じるし、必要なのだと思う。
この作品は三部構成になっていて、震災の様子がリアルに描かれた一部は読むのが辛いけれど文句なしに素晴らしい。
ただ、二部と三部は正直微妙。二部は未来編。三部は主人公達の「その後」が描かれている。希望が持てる良い展開だはとは思うのだけど「やり過ぎ感」と「グダグダ感」が否めない。
なまじ一部が良かっただけに「えっ? そっち向いて行っちゃうんだ……」と置いてきぼりな気分にさせられてしまった。
テーマがテーマなだけに希望が持てるラストが必要だったのは分かるけれど、第一部のリアルさを思うとギャップがあり過ぎて、作り事としか思えなかった。
二部、三部のグダグダさを思うと「素晴らしい作品」とは言い難いのだけど、一部だけでも読む価値はあると思う。読んでいて辛い作品だったけれど、手に取って良かったと思う。