実在の人物を主人公として描かれた作品『アラスカ物語』がやたらと面白かったので、続けて伝記小説っぽい作品を読んでみることしにした。
『太平洋食堂』は大石誠之助と言う実在の人物をモデルに描かれた作品。題名に「食堂」とあるけれど大石誠之助の本業は医師。太平洋食堂は普通の食堂…と言うよりも地域の人達のコミュニケーションの場と言うか寄り合い所的なイメージ。
義母の出身が和歌山県と言うこともあって、私自身なんとなく和歌山県には親しみを持っていて「和歌山県と言えば南方熊楠ってイメージだけど、他にも偉人がいたのか!」と興味を持って読み進めた。
太平洋食堂
- 1904年、紀州・新宮の海辺に「太平洋食堂」と名付けられた洋食堂が開店した。創立者は医師・大石誠之助。
- 誠之助は「ひげのドクトル」として人々に親しまれる。
- アメリカやアジア各地で学んだ誠之助は戦争と差別を嫌い貧しい人々に寄り添いながら診療と食堂の仕事を続ける。
- やがて彼は幸徳秋水、堺利彦ら多彩な思想家と交流し、“主義者”として国家の監視対象となっていく。
感想
そこそこ面白かったけれど先に読んだ『アラスカ物語』が面白過ぎたので、どうしても比較してしまって「なんかイマイチだなぁ~」と思ってしまった。『アラスカ物語』を読んでいなければ、そんな風には思わなかったのかも知れない。
申し訳ないけれど伝記小説を書く場合、作家の構成力が面白さに直結してしまう。『太平洋食堂』もテーマ自体は良かったのだけど、なんだかあれこれ描写し過ぎて全体的に散漫な印象を受けてしまった。
大石誠之助の生き様と人生を描きたかったのか、それとも社会主義運動について描きたかったのか、はたまた新宮の人達の生き生きとした生活を描きたかったのか?
要所要所は面白かったのだけど1つの物語として読むとまとまりがない気がしてならない。
……とは言うものの。大石誠之助って人間の魅力は伝わってきたし、軽く歴史の一端にふれることが出来たのも良かった。「自分の知らなかったことを学ぶ」と言う意味では良き学びの多い作品だった。
感心したのは明治時代に和歌山県の人は「東京はそんなに遠くない」と感じていたこと。筏で黒潮に乗っていけば3日で東京に着いたとのこと。そしてアメリカに対しても「海を越えればアメリカだから」くらいの感覚があり、東京の人よりも和歌山(新宮)の人の方がアメリカを近くに感じていた…いう一文に感心してしまった。
海が目の前にあって船が交通手段だった場合「海を越えれば」って感覚になるのだろうか? だとしたら、ちょっと浪漫があるよね。
それともう1つ。社会主義運動の一貫で描かれていた田中正造のエピソードは面白かった。田中正造って40代、50代だと歴史の教科書で足尾銅山鉱毒事件云々を学んでいると思うのだけど、教科書には書かれていない話が盛り込まれていたので面白かった。いっそ幸徳秋水と田中正造で小説を書けば良かったのに…まである。
個人的には学びの多い作品だったのだけど、小説としては物足りなさを感じた1冊だった。


