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サイレントシンガー 小川洋子 文藝春秋

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小川洋子の長編小説が6年ぶりに出た! 小川洋子は短編小説も良いけれど本質的には「長編を書いてこそ」の人だと思っている。短編小説だと童話っぽくなってしまってパンチが弱いのだ。

『サイレントシンガー』は待ちに待った長編小説。しかもファンタジー寄り。主人公の名前はリリカで「ここ(日本)ではないどこかの国」が舞台の小川洋子ワールドだった。

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サイレントシンガー

ザックリとこんな内容
  • 内気な人々が集う土地「アカシアの野辺」で育った少女リリカは、幼い頃から言葉ではなく十本の指を使った指言葉を使って暮らしていた。
  • そんな環境でリリカは“歌う能力”に目覚める。無言でいる人々、動物、人形のために歌うという、言葉よりも静かな声を持つふしぎな役割を担い始める
  • 外の世界から“歌の仕事”が舞い込むようになる。リリカは人形やアシカ、亡くなった人のために歌を吹き込んでいく。そうして彼女の歌声は沈黙を抱いてきた世界と外界を繋ぐようになり……

感想

結論から先に書かせて戴くと「いつもの小川洋子だった。小川洋子が好きな物を詰め込んだ作品で、ものすごく小川洋子らしいけれどそれ以上でもそれ以下でもなかった」としか言えない。

正直なところ「面白かったです」と手放しに絶賛出来るような作品ではなかった。新しさや驚きと言った要素は一切無くて、ただひたすらに「小川洋子らしい世界観ですね」って感じがした。

これは小川洋子の作品を読むたびに書いているけれど、小川洋子の作品って「静謐な世界云々」とか「静かで美しい云々」って言うよりも残酷で意地が悪いと思っている。みなさんお忘れになってませんか?小川洋子の芥川賞受賞作品を。『妊娠カレンダー』でグレープフルーツジャムを作る女を書いた小川洋子の悪意と毒を。

『サイレントシンガー』は一見すると静かな物語…って感じではあるけど、そもそも設定がエグイ。主人公のリリカが暮らしているのは「内気な人々」が集う集団生活の場で言葉を使わずに指言葉(手話的なもの)を使って生活している。カルト集団的な場所の中で育つ…だなんてそれ自体がホラーめいている。

そもそも小川洋子って「拘束」される設定がお好きですよね?(『アンネの日記』が好きで影響を受けておられるのか?)

さらに言うなら知的障がいとか精神疾患の人の見ている世界に大変興味をお持ちでいらっしゃる。人間社会では上手く適応できない人が主人公だったり主要人物だったりしがち。テーマとしてはかなりヤバくて目指す方向が1センチでもズレようものなら炎上したって不思議ではないなぁ~と思ってる。

私は小川洋子の描く残酷さや悪意、毒、歪さが好きで読んでしまうのだけど、デビューの頃からずっと同じテーマで書き続けているのって凄いなぁ~と感心してしまう。『サイレントシンガー』は最初から最後まで「小川洋子ワールドだなぁ~楽しそうに書いておられるなぁ~」と思いながら文字を追っていた。

「小川洋子ワールドを味わう」と言う意味で『サイレントシンガー』は良い作品だと思うのだけど、残念ながらそれ以上のものを見つけることができなかった。常連さんの前に「いつものメニュー」が提供されたような物足りなさを感じてしまった。

小川洋子は2025年12月時点で63歳。年齢的なことを考えると「書き続けてくれてありがとうございくす」って気持ちもあるれけど貪欲なファンとしては「もう1作くらいはパンチのあるのを読ませてください」と思ってしまう。次の作品に期待したい。

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