『塀の中の美容室』は女子刑務所内にある美容室が舞台の連作短編小説。コミカライズ化もされているとのこと。私が読んだのは小説版の方。
刑務所では社会復帰後の就労に向けた職業訓練があるそうだけど、美容師の資格が取得出来るとは知らなかった。岐阜県の笠松刑務所が有名とのこと。受刑者の誰もが美容師資格を目指せる訳ではないらしい。そもそも美容専門学校で学ぶのは2年間必要なので、2年以上服役す受刑者に限られるし、ハサミやカミソリなども使用するので受刑者自身が真面目である必要もあるとのこと。
『塀の中の美容室』はドキュメンタリーではなく、創作だけど「お仕事小説」として読むのも良いかと思う。
今回はサクッとネタバレ込の感想になるのでネタバレNGの方はご遠慮ください。
塀の中の美容室
- 物語の舞台は女子刑務所内にある「あおぞら美容室」では刑務所内で美容師資格を取得した受刑者が一般客の髪を切っていた
- 美容師として働く受刑者・小松原葉留がさまざまな悩みを抱える女性客の髪を切る
- 仕事に疲れた働き盛りの女性、1人暮らしの70代女性、好奇心から訪れた中学生ど様々な女性が美容室を訪れて…
感想
章ごとにゲスト主人公が変わる連作短篇方式。主人公はそれぞれ問題を抱えていて、物語の舞台となる「あおぞら美容室」で髪を切ってもらうことで癒やされていく…みたいな、ある意味ありがちな設定だった。
ただ章ごとの主人公の年齢層が幅広かったのは良かったと思う。この類の小説ってとかく「働く女性」か「子育て中の女性」あたりに焦点を当てがちだけど、高齢女性や中学生なども登場したのは予想外だった。
物語が進むにつれて、あおぞら美容室で働く美容師・小松原葉留の罪と人生が明らかになっていき、最終章は彼女の姉が美容室を訪れている。
「イイハナシダナー」ではあったのだけど、私は最終章が好きになれなくて「ナニコレ?乙女ゲームなの?」と首を傾げてしまった。小松原葉留の姉である奈津のエピソードはあまりにもご都合主義過ぎる気がして入り込むことが出来なかった。
「犯罪者の家族と結婚する」ってことが、どれだけ大変かは想像がつくけれど、それにしても奈津の恋人は乙女ゲームもビックリのご都合主義なキャラクターだった。
- 奈津と幼馴染
- ずっと奈津が大好きだった…てか一筋
- 服役中の妹がいることもOK
- 家族を説き伏せてから奈津にプロポーズ大作戦
……おいおい。どんだけ聖人君主なんだよ? そしてそんなに都合の良いイケメンから求婚されたら、それだけで人生勝ち組なのでは?
「この物語の美容室はフィクションです」って設定ではあるけれど、服役中の人間が外の人と会話が出来る上に、しかも家族が客として会いに来る…とか、あまりにもご都合主義が過ぎる。(実在している刑務所内の美容室は美容師(受刑者)との会話は禁止されている)
優しい世界が駄目とは言わないけれど、私個人の感覚では受け入れ難い設定だった。
受刑者が出所した後に再犯しないための仕組みを作ることは必要だと思っているし、刑務所で美容師の資格が取得出来るのは素晴らしいと思う。それはそれとして作品を読んだ後のモヤモヤ感はどうにも出来なかったし、大人が読む小説として『塀の中の美容室』のスタンスはどうかと思った。