献鹿狸太朗、初挑戦。献鹿狸太朗と書いて「けんしかまみたろう」と読む。男性風の名前だけど女性で大学院生とのこと。全く未知の作家さんなのだけど、漫画家デビューもされていて、イマイチどんな人かはよく知らない。
Twitter(現X)で話題になっていたので読んでみた。
地ごく
- 表題作を含め、自らの毒に冒されたい人に向けて描かれた短編集。
- 底辺労働者として働く久野は団地の自身の惨めさを糊塗するために、自分と同じく現状から抜け出せない団地の人々を定点観測していたが、観測だけでは飽き足らず……
- 「地獄」ではなく「地ごく」——このタイトルに込められた意味が、物語の核心で徐々に明かされていく。
感想
ものすごく嫌な感じの作品だった。だけど、貶しているのではなくて褒めている。底辺生活者の描写がとても上手い。私自身は『地ごく』に描かれているような生活をしたことが無いけれど、生活保護のケースワーカーをしている友人から伝え聞く様子と酷似していた。
日本には昔から「上見て暮らすな下見て暮らせ」って言葉があるけれど『地ごく』に描かれたのはまさにそれ。主人公は自分より劣っている人間を観察し、そして自分の楽しみとして玩具にする。最悪としか言いようがない。
だけど人間は本質的に残虐性を持っていて自分より下だと思う人間をバカにしたり、時に虐めてみたりする。『地ごく』で描かれた世界はまさにそれ。
ただし「文学レベルに落とし込まれているのか?」と聞かれたら正直微妙な気がした。短編小説だから仕方がないのかも知れないけれど、作品を支配する怨念のようなものが足りないのだ。例えば…だけど西村賢太は本当に汚らしい作品を書きまくって亡くなったけれど、彼の作品は本物だったと思う。西村賢太の作品は西村賢太にしか書けない。
だけどこの『地ごく』はそこまでには至っていない気がするのだ。なんと言うのかな…物凄く失礼な言い方をするとTwitter芸人と言うか、大喜利が上手な人の書いた短編小説って感じがした。世の中の流行りをキャッチして表現したことは評価するけど、そこ止まりだよね…と。
物語の最後に『地ごく』が『地獄』と表記されている理由が分かる仕掛けになっているのだけれど、この類のネタは文学の世界において使い古されたものなので残念なから新鮮味に欠ける。
世の中の流行りをキャッチして表現する能力をもう1歩進めることが出来たらなら、作者は凄い作品が書けるのではないかな~と思ったりした。