青山美智子の『人魚が逃げた』は2025年本屋大賞ノミネート作品。ちなみに青山美智子は5年連続で本屋大賞にノミネートされていて、こうなってくると本屋大賞無冠の女王感がある。
青山美智子の作品を読むのは『月の立つ林で』『赤と青とエスキース』『リカバリー・カバヒコ』はに続いて4冊目。
結論から言うと今回の『人魚が逃げた』は好きになれなかった。2冊好きになって2冊は好きになれず…ってことで現在2勝2負。微妙なラインだ。
ただし駄目な作品と言う訳ではなくて「音楽性の違いで解散するバンド」があるように小説の好みの方向性ってヤツは人それぞれ千差万別なので「私の好みではなかったな」ってこと。
人魚が逃げた
- 銀座の歩行者天国で奇妙な出来事が起こる。SNS上で「人魚が逃げた」という言葉がトレンド入りする
- 話題の中心には「王子」と名乗る謎めいた青年は街をさまよいながら「僕の人魚が、いなくなってしまって……逃げたんだ。この場所に」と語り、その不可解な言動が人々の注目を集める
- 「人魚騒動」が巻き起こる裏側で銀座を訪れた5人の男女の人生を描く連作短編集
感想
それにしても。青山美智子って人は連作短編形式にコダワリがあるのだろうか? またしても連作短編形式だった。
今回『人魚が逃げた』を好きになれなかったのは連作短編集だから…って訳ではなくて、登場人物達が好きになれなかったから…ってところに尽きる。
登場人物は5人いて、それぞれに問題を抱えているのだけど結局のところ「家族」とか「パートナー(恋人)」に関する問題がテーマになっている。私は登場人物達に対して誰1人共感することが出来なかったし「そりゃあ、そんなことしてたら駄目でしょ?」とか「言い訳してる場合じゃないんだが?」と冷めた気持ちになってしまった。
娘依存の母親とか自分本位に生きてきて妻から離婚を言い渡された夫とか、それぞれれ言い分はあったのだけど「お友達にはなりたくないタイプ」って感じだった。恋人関係の問題を抱えた人達にしても「私とは違う部族の生き物だな」くらいに価値観がかけ離れていた。
あえて良かった探しをするならば「青山美智子って作家さんは絵画が好きな人なんだな」って発見があったこと。今までの作品にも絵画登場していたけれど、今回も絵画についての話があった。絵画に対する愛情のようなものが伝わってきて、その点だけは良かった。
私の中で「青山美智子=連作短編の人」みたいな認識が成り立ちつつあるのだけど、1度ガッツリと1人の人間を掘り下げて1人の視点で描いた小説も読んでみたいな…と思ってしまった。次作に期待したい。