2024年に『神に愛されていた』を読んで心を撃ち抜かけれて以降、木爾チレンを追いかけていた私はついに為書き付きサイン本に手を出した。
『夏の匂いがする』は木爾チレンが女による女のためのR-18文学賞で優秀賞を受賞した『溶けたらしぼんだ。』を含んだ初期短編集。2024年の12月には発売された時に、ちょい課金すれば為書き(名前)入りのサイン本が手に入る…ってことを知ったので「推しは推せる時に推しておこう」の精神で申し込んでみた。
大変美しい装丁の本で中凝りに凝りまくっている本で自分が同人誌を作っていた時のトキメキを思い出しまった。木爾チレンって作家さんは本当に本を愛しているのだな…と愛おしいような気持ちを抱きつつ、それと作品の感想は別の話。
夏の匂いがする
- 木爾チレン初期短編集。女のためのR-18文学賞で優秀賞『溶けたらしぼんだ。』を含む5作を収録
- 作品のあとに作者の解説が入っている
感想
猛烈に美しい本で手に取った瞬間にテンションが爆上がりしてしまったのだけど、読んでみたら一気に醒めた。
本との出会いって色々あるけど「最初にどの作品と出会うか」で、その作家との付き合い方が変わってくる気がする。もし私にとって初の木爾チレン作品が『夏の匂いがする』であったなら、私は木爾チレンを追わなかった。
悪くはない…悪くはないけど「なんか吉本ばなな味があるよね」とか「松浦理英子のイージーモードって感じ?」とか「作者、絶対に山田詠美とか好きよね」みたいなことを感じてしまった時点で「悪くはないけど、もういいかな」って思ってしまう。
70点くらいの小説の場合、既存の作家の作風に似ている…と感じた次点で魅力が半減してしまう。そしてたとえ方向性が似ていたとして、既存の作家をぶっ飛ばすくらいのパワーがあれば問題ない訳だけど、たいていは下位互換でしかないのだ。
どこかで読んだような小説ばかり書いていた木爾チレンが、ずっと小説を書き続けたことで自らの個性を作り出していったのだな…と言う発見が出来たのは良かったと思う。デビュー作を読んだだけで「この作家とは合わないな」と切り捨ててはいけないのだな…と反省した。
為書き付きサイン本を購入したことに後悔はないけれど、個人的には「可もなく不可もなく」くらいの短編集で、たぶん数年経たずに内容を忘れてしまうと思う。木爾チレンの新作に期待したい。