直木賞受賞の『ともぐい』はイマイチ好きなれなかったけど『愚か者の石』は『ともぐい』よりは好き…とは言うか「アリかな」って感じだった。
河﨑明子は2015年に『颶風の王』を読んで以降、地味に応援しているものの、作品の方向性も完成度もバラつきが多くて困惑してしまう。一言で言うなら安定感が無いんだよなぁ。『愚か者の石』についても引き込まれる面白さではあったものの、色々とモヤッとさせられる作品で「最高でした」と言えないのが残念。
今回の感想はネタバレがあるので、ネタバレNGの方はご遠慮ください。
愚か者の石
- 物語は明治18年から始まる。北海道の樺戸集治監物語明治18年初夏、瀬戸内巽は国事犯として徒刑13年の判決を収監される。
- 巽の同房の山本大二郎は、女の話や食い物の話など夢のような法螺ばかり吹く男だった。
- 明治19年春。巽は硫黄採掘に従事するため相棒の大二郎とともに道東・標茶の釧路集治監へ移送される。その道中で一行は四月の吹雪に遭遇し生き延びたのは看守の中田、大二郎、巽の三人だけだった。
- 無数の同胞を葬りながら続いた硫黄山での苦役は二年におよび、巽と大次郎は再び樺戸に戻される。
- 硫黄採掘が原因で体調を崩していた大二郎は、明治22年1月末、収監されていた屏禁室の火事とともに姿を消す。そして…
感想
私。なんだかんだ言って監獄をテーマにした小説が大好物なので、そう言う意味では面白かった。吉村昭の『破獄』とか最高に好きだし、映画『ショーシャンクの空に』の原作である『刑務所のリタ・ヘイワース』なんかも大好きだ。
そう言う意味では『愚か者の石』も明治時代の監獄物として面白く読ませてもらった。ちょっと漫画の『ゴールデンカムイ』を彷彿とさせる感じ。
囚人2人と看守の間に生まれる友情めいた関係がとても良かった。一般的な友情とは少し違う感じだったけれど、過酷な状況の中で共に過ごす同志…って感じだろうか。
ざっくり7割くらいは面白かったのだけど、私にはどうにも大二郎の扱いが納得いかなかった。最近の小説って「無実の罪で監獄に入る心優しい人」を出してくるのが流行ってるのかな? 形は違えど早見和真の『イノセント・デイズ』もオチは似たような感じだった。
「無実の罪を着て監獄に入る人」って設定はそれ自体がドラマチックで涙をそそるけれど、設定だけに頼っちゃうのは安易過ぎるよなぁ~と思ってしまった。さらに言うなら『愚か者の石』の場合「子ども殺し」のエピソードが振られた次点で読者は「ははぁ~ん。大二郎は子ども殺しの罪で監獄に入ったんだけど無実の罪なんだろうな」と先が読めてしまうのが駄目過ぎだった。
いっそ、大二郎が特殊性癖の持ち主で本当に子どもを殺していて懊悩していた…くらいの方が個人的には楽しめたと思う。
途中まで楽しく読ませてもらったけれど、最後まで読んでモヤモヤしてしまった。悪くはないけど色々と中途半端な印象。河﨑明子の作風はけっこう好きなんだけど「えっ?なんでそうなるの?」みたいな感じで裏切ってくるのが微妙だ。
それでも、また気が向いたら別の作品にチャレンジしたい。