ここしばらくは意識的に直木賞や本屋大賞受賞作を読むようにしていて『水車小屋のネネ』は2024年の本屋大賞2位に輝いた作品。
津村記久子は好きでも嫌いでもない作家さん。本屋大賞を取る前から作品名は知っていたものの作品名を聞いた瞬間「癒し系で女子好きのするような…丁寧な暮らし的な話なんだろうなぁ」と思ってしまって敬遠していたのだけど、予想の斜め上な感じの物語だった。
水車小屋のネネ
- 蕎麦屋の水車小屋で飼われているヨウム(オウムのような鳥)のネネと姉妹の物語。
- 大学入学金を母親が恋人に注ぎ込んだため、大学進学を諦めた理佐(18歳)と母親の恋人から嫌がらせを受けていた妹の律(8歳)は姉妹母のアパートを飛び出して姉妹2人きりでの生活をはじめる。
- 水車小屋のある町で暮らす2人の姉妹の40年。
感想
題名を知った時は「水車小屋で生活するネネ(たぶんニックネーム)って女の子の物語なのかな?」と思ったのだけど、ネネはヨウム(オウムに似た喋る鳥)だった。『水車小屋のネネ』はネネの周囲にいる人達の40年の物語。一応、主人公は理佐と律の姉妹…って感じ。
物語の出だしは圧倒的に面白かった。大学進学費用を親に使い込まれた女子高生が就職を決意し、母親の恋人から虐待を受けていた妹と2人暮らしをする…ってところから物語ははじまる。昭和50年代…って感じだけど、それにしてもハードモードな人生だと思う。
ロクでもない親に育てられた子どもが身持ちを崩すことなく真っ当に生きていくのは難しいと思うのだけど、理佐と律の姉妹は周囲の協力とネネに助けられて真っ当な大人になっていく。こういう展開の小説って今までありそうで無かったかも。たいていの場合、ハードモードな人生で不幸に次ぐ不幸…みたいな流れになりがち。
周囲の大人の助けを借りつつ真面目に生きていく姉妹を「頑張れ」って気持ちで読み進んでいたのだけれど、どういう訳か途中から…正確に言うなら理佐と律の姉妹が大人になってからは面白さが失速していく。その残念さ加減は古き良き少女小説において「主人公が少女のうちは猛烈に面白かったのに、続編(大人)になってから、面白さは半減したよね」みたいな感じと似ている。
『水車小屋のネネ』は40年に渡る物語なので関東大震災やコロナ禍も登場する。私は途中から「ツマンナイ展開になっちゃったよね」と思って読んでいたけど、読み終えた後でこの作品が新聞小説だと知った。
私が「ツマンナイ展開」と感じた展開も、もしかしたら毎日少しずつ読み進めていく形式の新聞小説だったら気にならなかったのかも知れない。そう言えばちょい前に読んだ新聞小説の『かたばみ』も滑り出しは抜群に面白かったのに途中から面白さが半減している。
もしかしたら…だけど新聞小説ゆえの難しさがあるのかも知れないな…と思ったりした。もっとも新聞小説でかつ「1冊の本にしてもなお面白い」って作品は凄いとも言えるのだけど。
『水車小屋のネネ』は私の中で「まあまあ面白かったな」くらいのところで着地した。残念ながら後日思い出しても「水車小屋でヨウムを飼っていた小説があったな」くらいにしか覚えていない気がする。要所要所では面白かったけれど「1冊の本」として読むとバランスの悪い作品だと思った。