素晴らしい戦争文学だと思った。手放しで絶賛したい。
野坂昭如『火垂るの墓』や大岡正昇平『野火』などが戦争の悲惨さを正面から描く文学とするなら、映画『ローレライ』の原作である福井晴敏『戦場のローレライ』は、そこにエンターテイメント性を加えた変化球と言うところだろうか。
そして、この『プリズンの満月』は、そのどちらにも属さない「外堀から戦争を捉えた作品」だと思う。
プリズンの満月
ザックリとこんな内容
- 主人公は40年、刑務官として勤め上げた男。
- 定年した主人公に再就職の話が舞い込んだ。それは、巣鴨プリズン跡地に建つ高層ビル建設の警備を指揮するというものだった。
- 主人公の脳裏に、かつて自らが刑務官として勤務したプリズンの思い出が浮かび上がる。
感想
戦犯を収容した「巣鴨プリズン」の看守だった男が主人公のし小説で、始まりから終わりまで実に淡々としている。
主人公の事情や生活を語りつつ、収容されている戦犯を語られている。そして読者は物語を読み進めていく中で戦争が生んだ「理不尽さ」を噛み締めずにはいられない……という、なかなか巧みな作りになっているのだ。
「戦争して良いことなんて何ひとつありゃしない」ということをつくづく思った。
しみじみと良い作品で、色々と考えたことがあり、また感動した場面も多かったのだが、あまりにも良かったので、とても感動を語りつくせそうにない気がする。
いつか、また再読して感想を書きたい。が、今はまだ良い作品に出会えたことの幸せを噛み締めるだけに留めておきたい……と思う。