吉野万理子は初挑戦の作家さん。『イモムシ偏愛記』は題名に惹かれて手に取った。
「吉野万理子って名前だけは聞いたことある気がするんだけど…」と思っていたら、娘の本だった。児童文学のジャンルでも活躍されているらしい。
『イモムシ偏愛記』を読みながら「この作品、面白いけど大人より子どもに読んで欲しい…」と感じたのは正解だったみたいだ。
図書館では大人向けの小説の棚にあったけれど、本の好きな子なら小学校高学年くらいから充分理解出来ると思う。
イモムシ偏愛記
- 主人公はお屋敷街の麓にある新興住宅地に引っ越してきた中学3年生の少女、凪。
- 凪の母は大の虫嫌いで凪も虫嫌い。
- ある日、凪はひょんなことから、近所の豪邸に住む嘉世子と知り合いなる。
- 嘉世子は凪が大好きなアイドル・ヒカルの祖母だった。
- ヒカルに近づけきたい一心で、凪は嘉世子の家でイモムシの世話引き受けることになるのだが…
感想
題名を見て「なるほど。虫愛づる姫君の話か」と思ったのだけど、主人公の凪は虫愛づる姫君どころか、虫が大嫌いな女の子だった。
憧れのアイドルに近づきたくて、昆虫が好きな嘉世子さんの手伝いをするうちに、虫に魅了されていく…と言う物語。
『イモムシ偏愛記』。これは理科の好きな女の子にも、理科の嫌いな女の子にも読んで欲しい!
私は子どもの頃は虫取りに夢中になった事があるものの、大人になった今では蝶々どころか、虫なんて全般的に遠慮したいと思っている。娘が小さい頃はカブトムシだの、ダンゴムシだのの世話をしたものだけど、娘が虫を卒業した今は2度と触りたくないと思っている。
そんな私でさえ『イモムシ偏愛記』を読んでいるうちに「へぇっ。イモムシって面白いなぁ」と思ってしまったのだ。
流石に児童文学の世界が活躍した作家さんが書いただけあって、言葉が簡単で読みやすい。嘉世子さんが語るイモムシと昆虫のウンチク話がとにかく面白かった。
そして主人公が少女だって設定が上手に生かされていた。
- 1番仲の良かった友達との関係の変化
- 憧れのアイドルとの交流
- 家族(親)との関わり
- 新しい世界への挑戦
成長小説としての大事な要素を丁寧に抑えつつ、大人の汚いところもサラッと突っ込んでいるところが素敵だと思った。
私は児童文学も好きなので素直に「面白い」と思ったけれど、もしかすると普通の大人向けの小説をイメージして読むと物足りないかも知れない。
話が上手く進み過ぎる感じは否定できない。特に後半で嘉世子さんがしたことは大人目線で読むとドン引きレベルのゲスさで「おいおい。それ、ごめんで済ませて良い問題かよ?」って思ってしまった。私が凪なら嘉世子さんを「絶対に許さないリスト」に書き込むと思う。
ツッコミどころもあるけれど、主人公の凪はなかなか真っ直ぐで可愛い子だし、虫のウンチクは本当に楽しい。
子ども達に読んで欲しいのはもちろんだけど、重たい作品を読むのにくたびれた時なんかにもってこいの作品だと思う。