学問のことしか頭にない男と、その男に恋した大年増の芸者が、長崎につたわる「歌」を探す物語。
長崎で芸者として生きたヒロインの半生を描いた作品にしては、エロ要素が無く、良い意味で古風な印象をうける仕上がりになっていた。
長崎ぶらぶら節
長崎・丸山遊里の芸者愛八が初めて本当の恋をしたのは、長崎学の確立を目指す研究者・古賀十二郎だった。「な、おいと一緒に、長崎の古か歌ば探して歩かんね」。
古賀の破産を契機に長崎の古い歌を求めて苦難の道を歩み始める二人と、忘れられた名曲「長崎ぶらぶら節」との出会い。
そして、父親のいない貧しい少女・お雪をはじめ人々に捧げた愛八の無償の愛を描いた、第122回直木賞受賞作。
アマゾンより引用
感想
「竹を割ったような性格」という言葉があるけれども、この作品のヒロインは、まさに「竹を割ったような性格」の持ち主。
性格はサッパリしているが情に厚く、人情に厚く色気ではなく「芸」で自分を立てようという心意気をもった女性だった。
私は「心意気」をもった女性が無条件に好きなので、この作品のヒロインには、すっかり惚れこんで読んでしまった。
ヒロインが心意気の人の場合は、どうしても損な役どころをあてられることが多く読んでいて「不憫だねぇ」と思うことが多いのだがこの作品では、そこここに彼女の理解者がいて、気持ち良く読むことができた。
もちろん「なんて不器用」と思う部分はあったのだが彼女を評価してくれる人も、ちゃんといたあたりは心憎い。
「読者=脇役」という入り込み方が出来る作品だと思う。
この作品の中には、心に残る見せ場が2箇所あった。
1つは、長崎に埋もれる歌を探す過程で隠れキリシタンの里へ行く場面。ここでの描写は、なんともいえない美しさがあって圧巻だった。学者と、芸者と、伝承の歌を歌い継いできた人達の気持ちが綺麗にミックスされていて、出来事ではなくイメージで魅せられたという印象。
もう1つは、ヒロインが恋する学者と枕を並べていながらも身体を交えることができなかった場面。
心情的には「据え膳喰わぬは男の恥」というかあれだけ一途に想ってくれる女の気持ちを受け取ってやってくれよ……と思ってしまった。
それでも抱かない男にイラつきを感じたりするのだが「交わらない理由」も、納得できるもので二人の心意気がジンとくる、精神的な繋がりだけを感じさせる場面だったと思う。
作品全体から「心意気」を感じた、読みごたえのある1冊だった。