久しぶりの桐野夏生作品。新刊は新聞小説とのこと。大阪在住の私には馴染みのない新聞なので、連載されていた事自体知らなかった。
「桐野夏生だから間違いないだろう」と思って手にとったのだけど、最近の桐野夏生の作風とは一線を画した作品で、どちらかと言うとイヤミスに近い感じだった。
ジェットコースターのような展開はなくて、じわぁぁっと嫌な感じ。
じわぁぁっと、じっくり楽しませてもらった。
とめどなく囁く
- 東京新聞(中日新聞)の朝刊に掲載されていた新聞小説。
- 主人公、早樹は41歳。相模湾を望む超高級分譲地「母衣山庭園住宅」の豪邸で歳の離れた資産家の夫(72歳)と2人で暮らしていた。
- 夫は前妻を突然の病気で亡くしていて、主人公は前夫を海難事故で亡くした再婚カップル。
- ある日、早樹は前夫の母親から「息子が生きているかも知れない」との話を聞かされる。
感想
まず最初に突っ込みたくなるのが主人公カップルの年齢差。「30歳年の離れた夫婦とか考えられない」と思う人もいるかと思う。
ちなみに私は年の差はアリだと考えている派。
夫とは2歳しか離れていないけれど、年の離れた友達が多いせすか、主人公早樹の気持ちが分からなくもなかった。話が合うとか合わないとかって、年齢は関係ないと思っている。
『とめどなく囁く』では「海難事故で死んだと思われていた前夫が生きているかも知れない」と言うところが物語の軸になっている。
- 死んだはずの前夫は生きているのかどうか?
- 生きているとしたら、どうして身を隠していたのか?
- それとも誰か別の人間が仕組んだ罠なのか?
読者は早樹と同じ視点に立って謎を追いかけていくことになる。
そして謎を追いかけていくことで、早樹と2人の夫達を取り巻く人間関係が明らかになってくる。
ちょっと面白かったのは年の離れた早樹の夫と娘との関係。
父と娘は互いに「この人とは合わない」と感じていて、親密な関係を築くことが出来なかった。
「家族全員仲が良いんです」とか「仲が良いってほどではないけど、うちの家族は至って普通だと思うけどなぁ」と言う人には理解できない世界かも知れないけれど「親子だから分かりあえる」なんて幻想だと思う。
実際、私はいまだに実母のことが理解できないし、根っこのところで好きじゃない。
家族なのに分かり合えないってことは、厄介なことで親も子も不幸だと思う。
『とめどなく囁く』の中にはそれ以外にも「分かり合えない人達」「どうしても合わない人達」が何組か登場する。
この作品はミステリの体をなしているけれど、人間関係に関する描写が濃くて色々と考えさせられてしまった。
今回はネタバレを避けようと思うので、物語の本質的なところに触れることが出来ないのだけど、ラストは実に酷い。
「そりゃないわ~。この展開は酷いわぁ~」と思った。私だったら普通ではいられないと思う。
最近の桐野夏生の雰囲気とはちょっと違う色合いだけど、続きが気になってイッキ読みしてしまった。
好き嫌いが分かれそうだけど、人間の嫌なところを描いた読み応えのある面白い作品だと思う。