作者の作品は、どうにも胡散臭いと言うか、嘘臭さが鼻について好きになれないと思っていたのだけれど、この作品はけっこう面白かった。なんでも出来る出来杉くんのような兄と、おバカキャラだけど周囲の人間から愛される弟の物語。兄弟関係を軸にした青春小説。青臭く、かつ甘酸っぱくて良かった。
自分自身が女性なので「男同士」といえ関係にとても憧れてしまう。姉妹や、姉弟とはまた違っているのだろうなぁ。この作品を読んでいて「羨ましいなぁ」と思ってしまった。しかし、この作品を男性が読んだらどう感じるのだろう? 案外「こんなの嘘っぱちだ」と言われてしまうかも知れないなぁ……とは思った。
ストーリーとしては、ありがちと言うか、黄金パターンだと思ったけれど、兄も弟も真面目に生きていてとても好感が持てた。「真面目である」ってことは決して格好悪いことではないってことを改めて実感させられた。
大阪が舞台で、大阪在住者読むと「あぁ、それ分かる」とか「そうそう。そうだよね」と思うような箇所が多くあるのだけれど、大阪在住者以外の人はどう感じるのだろうか? 吉本のギャグだの、大阪人気質の説明なんかは、ちょっとクドイかも知れないなぁ……なんてことを思った。しかし、大阪在住者から言わせてもらうと、この作品に描かれた現代の大阪は非常にリアルである。小説の中だから…ではなく、大阪で暮らしていれば、そこここにある風景が描かれていて、なんかちょっと嬉しかった。
後を引くようなズッシリ感こそないけれど、爽やかで気持ちの良い青春小説だと思った。
戸村飯店青春100連発 瀬尾まいこ 理論社