気持ちのよい小説だった。表題作プラス1は、どちらも血のつながりと家族がテーマ。「ぼくのへその緒を見せて」と聞かれて「卵で生んだから、へその緒はない」と主張する母がラブリーで良い。卵の緒……ってのは、なかなか洒落た発想だなぁと感心した。いちおう、大人向けの小説なのだが、このまま児童文学の棚に並べても遜色ないような感じ。それくらい気持ちが良くて品行方正な小説だったのである。
おおむね良かったのだが、人間達が綺麗過ぎる……というか、都合が良過ぎるような気がした。表題作の母にしても、もう一作の『7’blood』の少年にしても「ここまで出来た人はいないだろう」という出来過ぎっぷりなのだ。ただ、これも1つのドリーム小説として読むのならいいかも知れない。家族メルヘンと言うか。こういうノリに憧れちゃう気持ちは理解できる。あとがきによると、作者は父親のいない家庭で育ったらしく「家族に憧れがあった」とあった。憧れの家族が描かれているのだろう。世知辛い昨今、こういう気持ちの良い作品を書く人ってのは、ある意味において貴重かも知れない。
ただ個人的に好きか嫌いかを問われたら「好きじゃない」とキッパリ答えることができる。積極的に嫌い……ってほどでもないのだけれど。どうも、こういう小手先のドリーム小説って、胡散臭さの方が先に立ってしまうのだ。とくに『7’blood』のオチは、いくらドリームといったって、どうよ? なんとなく、都合の悪いこと、嫌なことは全部「なかったこと」にして書かれた小説のような気がした。
私はイマイチ好きになれなかったのだが良い作品だと思う。合言葉は「メルヘン」て感じ。こういう作品も良いと思う。
卵の緒 瀬尾まいこ マガジンハウス