佐川光晴のデビュー作で、自伝的な色合いの濃い作品だった。
働く主夫で、しかも仕事が屠殺業の主人公というのは、ちょっと珍しい。
最初の方は珍しくて夢中で読んだのだが、あまのにも「屠殺業について思うこと」が繰り返し書かれているので、途中で飽きてきて読むのが嫌になってしまった。
生活の設計
ぼくが屠畜場で毎日ナイフを持って働いている理由?よし、説明してみよう!キツイ仕事ゆえ、午前中で終業だから、共働きの妻にも幼い息子にも都合がいい。ぼくの体質にも最適なんだ。しかし…各紙誌で話題、爽快な新潮新人賞受賞作。
アマゾンより引用
感想
屠殺業というのは、なかなか特殊な職業だと思うし、私の身近にそういう職業の人はいない。
しかし私にとって「身近に屠殺業の人がいない」と言うことと「身近に桶職人がいない」ということは大差ない。
それくらい、どうでも良いことについて「あ~だ・こ~だ」と屁理屈でもって語られても、ウザイばかりで楽しくないのだ。
取っ掛かりの導入部と、後半部の「屠殺職人の技術」の語りは面白かったけれど、作品としてはイマイチだった。
ただ「へぇっ」と思ったのは、佐川光晴がこの作品でデビューしているという事実だ。私が審査員だったら、絶対通さないと思う。
新鮮でもなければ職人でもない。熱い魂は感じるけれど「売れる」というものを感じるだけのパワーもない。それくらい面白くなかった。
しかし『極東アングラ正伝』に見られる開花を思えば「審査員って、やっぱり見る目があるのかも」と思わずにはいられなかった。もっとも、ものすごく売れている作家さんではない……ってのも事実なのだが。
ま。最後の最後の一文は、古臭すぎるのを通り越して、良かったかも知れない。
こういう作風の作家さんはある意味おいて貴重かも。もう少し面白ければ、言うことはないんだけど……てな1冊だった。