凄い小説を読んでしまった。圧倒的に面白い。
今年はまだ半分しか過ぎていないけれど少なくとも私が上半期に読んだ本の中ではダントツに面白かった。
ただテーマがテーマだけに誰にでも「これ、面白いから読んでみて~」とはオススメしない。生理的、倫理的に受け付け難い人もいると思う。
廃用身
廃用身とは、脳梗塞などの麻痺で動かず回復しない手足をいう。
神戸で老人医療にあたる医師漆原は、心身の不自由な患者の画期的療法を思いつく。それは廃用身の切断だった。
患者の同意の下、次々に実践する漆原を、やがてマスコミがかぎつけ悪魔の医師として告発していく―。
アマゾンより引用
感想
題名になっている『廃用身』とは脳の疾患等により動かなくなった手足のこと。
例えば脳梗塞とか脳血栓になった時、後遺症で手足が動かなくなったりする事があるけれどリハビリである程度回復することもあれば、どうしようない事がある。
この作品の主治医は「廃用身は切断しちゃおうぜ」と患者の四肢の切断に踏み切る。
こう書いちゃうと「なるほど。狂気のマッドサイエンティストの物語か」と思ってしまうのだけど老人介護の問題にからめて複雑な物語に仕上がっている。
前半は主人公のひとり語り。後半は主人公が行った廃用身の切断を追っていたジャーナリストの手記になっている。
この物語が複雑なのは「狂気のマッドサイエンティスト」の話ではないと言うところにある。
廃用身の切断は主人公の患者達を幸せにしていた…と言う側面があり、主人公はマッドサイエンティストどころか人格者でもあったと言うところだ。
詳しい内容は読んでいただきたいので伏せておくけれど、素人なりに共感する部分も多かった。
それにしても「よく、まぁこんな発想が出てきたな」と感心してしまった。
作者の久坂部羊は医師で在宅医療、老人医療に携わいっている。
以前読んだ『老乱』は認知症介護がテーマだったけれど、この作品も老人介護が大きな主題になっている。
『老乱』と違うのは、医療問題、介護問題に人間の業のようなものを絡めてきたところ。『老乱』よりエグ内容だけど、生理的にOKであれば、この作品の方がずっと面白い。
面白い作品だし何より色々と考えさせられる作品でもあった。
私の場合、弟が事故で指を切断している事もあって考えさせられる場面が多かった。「もし自分が…」とか「自分の家族が…」と考え出すと、正解が出ないってとろころがポイントだと思う。
凄いところ突っ込んできたなぁ…と感心させられた。
久坂部羊の作品は他にも色々あるようなので追々と読んでみたいと思う。
ちなみに。題名になっている「廃用身」って言葉は医学用語的には間違っていて「廃用肢」が正しいらしい。
久坂部羊が聞き違えたまま作品にしちゃったのだとか。この作品を勧めてくれた読書の師匠から教えてもらったので誤解のないように書いておきます。