『マルチの子』は小説として読むのではなくマルチ商法やネットワークビジネスにハマらないための教科書として広めたい作品だった。
小説としてマルチ商法を読みたいのであれば新庄耕の『ニューカルマ』の方がドラマ性が高くて面白いのだけど『マルチの子』は作者自身がネットワークビジネスにハマって借金を負った経験の上に成り立つ作品なのでリアリティが半端なかった。
マルチの子
- 優秀な姉と愛らしい妹に囲まれて育った鹿水真瑠子は、自分には何もないという劣等感を抱え、夢も持てないまま毎日を過ごしていた。
- バイト先で「磁力と健康セミナー・無料開催」という貼り紙を見つけた真瑠子は勧誘者の丹川谷勝信との出会いをきっかけに、マルチ商法の世界へ足を踏み入れる。
- 初めて自分を認めてもらえる居場所を見つけた真瑠子は、成功を目指して活動にのめり込み、次第にマルチ商法の価値観へ深く染まっていく。
- 承認されたいという思いから始まった選択は、やがて周囲との関係や自分自身をも揺るがし、真瑠子は抜け出せない現実と向き合うことになっていく。
感想
『マルチの子』は社会人になるまでの若者に是非読んで欲しい。学校という集団を離脱して社会に出たとたん、誰もが1度や2度はマルチ商法だのネットワークビジネスだのの勧誘を受けることになると思うのだけど、この類の危機管理教育ってきちんと受ける場が無い気がする。
「あとがき」で作者自身が体験談を踏まえて思いを書いているので「あとがき」も含めて良い教材だと思った。
- マルチ商法のテンプレート
- どんなタイプの人間がハマりやすいのか?
- マルチ商法にハマった人の行き着く先について
『マルチの子』ではこれらの知識を小説を楽しむ中でストレスなく学ぶことができる。私が感心したのは「マルチ商法やネットワークビジネスはそれ自体がギリギリグレーゾーンであったとしても最終的には犯罪(もしくは犯罪者)と繋がっている」ってことだった。主人公の真瑠子があれよあれよという間に身持ちを崩して犯罪者側の思考に染まっていくのには唸らされたしリアリティを感じた。
残念だったのは最後の「オチ」の部分がこじつけがましかった……ってこと。冒頭から丁寧に伏線を仕込んでおくならともかく「えっ?そんな素振りありましたっけ?」と置いてけぼり感が半端なかった。「あえて書かなかったんです」ってことなのだろうけれど、最後のターンで結局書くのであれば、そこは伏線を仕込んで読ませて欲しかったな……と。
小説的には未熟さや粗さが目立つ作品ではあったけれど、冒頭にも書いた通り「マルチ商法やネットワークビジネスにハマらないための教科書」として素晴らしい読み物だと思うので、多くの若者の目に触れて欲しいと思う。



