大阪在住の私。大阪の外食はレベルが高いと信じている。
「行列の出来る店」とはいかなくても、小学校区には大抵「安くてまあまあ美味しいお好み焼き屋」もあるし「安くてまあまあ美味しいたこ焼き屋」がある。それが大阪って言う土地なのだ。チェーン店じゃない「まあまあ美味しくて、それなりに儲けている外食店」を簡単に見つけることが出来るのが大阪の魅力。
……とは言うものの。私が幼少期はそうでもなかった。
昭和の頃は「ビックリするほど不味い店」も普通にあったし「どう考えてもボッタクリ価格の店」も普通にあった。しかしそれらはインターネットの普及によって淘汰されていったように思う。
前置きはここまでにして本題。
私と夫はウォーキングを共通の趣味としているけれど、ウォーキングと同じくらい「スパイスカレー」にハマっている。スパイスカレーはここ数年流行っている大阪発祥のカレー。
ウォーキングの時はたいてい野良犬のように、屋外でおにぎりを齧ることが多いのだけど、スパイスカレーについては別枠。何なら「今日のウォーキングの目的地は◯◯のスパイスカレー」なんて日もある。
ある日、ウォーキングの最中でノーチェックのスパイスカレー店を見つけた。住宅街の中にあって「脱サラおやじが開業しました」感のあるお店だった。発見時は昼食の用意があったので「いつか行こうね」と話していたのだけど先の黄金週間はそのお店に足を運ぶことが出来た。
店内はオープンキッチン的カウンター形式で店員は店主1人。店主の年齢は分からないけど明らかに65歳は越えている雰囲気。辛さやトッピングを選べるタイプで、夫はプレーン。私は辛さを1つ上げて注文した。トッピングは付けなかった。注文した後、夫は「トイレに行ってくる」と席を立ち私はふとカウンターの中に目をやった。
この店、スーパーで売ってるカレールー使ってる!
米もルーもスパイスもすべてイオンだの地元スーパーで売っている物ばかり。厨房内にはだし醤油のボトルとか、業務スーパーで見掛けるスパイスなどが並んでいた。
トイレに行った夫に「この店ハズレかも。市販のカレールー使ってる」とLINEを入れた。
…とは言うのの。市販のルーはもしかしたらプライベートで食べる普通の家のカレー用かも知れない…とそんな事を考えつつカレーが出てくるの待った。そして出てきたカレーがコレ↓

スパイスカレーと名乗る食べ物
どう見てもカレールーを溶かしただけのカレーに業務スーパーで売っているオニオンフライを振りかけて、小さい器に謎の肉(たぶん業務スーパー製のスジ肉煮)が添えているだけのものだった。ルーに具は入っていない。
味は…と言うと、市販のカレールーに市販の液体だし醤油だのソースを加えただけだと思われる。妙に和風出汁の味がした。
さらに言うなら私達夫婦の次に高齢の男性1人で来店したのだけれど、彼は「カレー屋に来て申し訳ないんですが辛いの苦手なんですよね」と言っていて、マイルドなカレーを注文した。なお。マイルドなカレーは私達の注文したカレーと同じ鍋から注いだカレーに市販(しかもスーパーのPB商品)のリンゴジュースを入れて混ぜ、これまたスーパーで売っている生クリームのパウチを回しかけただけだった。
どうして…どうしてオープンキッチンにしたのよ? その作業を客に見られて恥ずかしくないの?
注文したカレーを黙々と食べた私は店内のあちこちに「グーグルの評価お願いします」と言うQRコードが貼られていることに気付いて驚愕した。このカレーにどう評価すれば良いと言うのか? スパイスカレーの様式にさえ届いていない…何なら高校の文化祭で出てきても不思議じゃないクオリティのカレーに評価とか…いるのか?
そんな私の困惑をよそに店主は満面の笑みでもって「辛さは大丈夫でしたか?」と聞いてきた。驚くほど貧相なカレーなのに…スパイスカレーの様式にも乗っかっていないカレーなのに、なんと言う自信!
「市販のルーを溶かしただけのカレーを出して恥ずかしくないの?」「もしかして馬鹿なの?」と、色々な思いが込み上げてきたけれど店主のニコニコの笑顔を見て思った。この人は悪気があってこのカレーを出している訳じゃないんだな…と。そして、そんなカレーであったとしても客が納得して食べいてるのであれば商売が成立するんだな…ってことを思い知らされた。
めちゃくちゃビックリするのだけれどグーグルに「ここのカレー、クセになります」と書いている人がいたのだ。売り手と買い手が納得すれ商売は成立する。
1000円払って高校の文化祭の飲食物以下の食べ物を食べたけれど、ある意味貴重な体験だった。
……とは言うものの個人的にはスパイスカレーを名乗らないで戴きたいとは思うし、コスパ的には最悪だったけれど私はグーグルに酷い評価を付けて商売の邪魔をしようとは思わない。多様性の時代なのだ。市販のルーを溶かしただけのカレーがあったっていいじゃない。
インターネットの口コミで外食店が潰れることのあるこの時代に市販のカレールーを溶かしただけのカレー店が生き残っているのはある意味奇跡。なので稀有な体験として、ここに記録しておく。