数年ぶりに再読してみた。相変わらず、森茉莉の書いた物を読むと呆然とさせられる。
50歳を越えた人の文章とは到底思えない。
子供の心を持ったまま大人になった人と言う印象がある。文章はちゃんとしているのだけれど、考え方とか感性が幼児のまま大人になっちゃったのかなぁ……とさえ思わせるものがあるのだ。
記憶の繪
葬式饅頭を御飯にのせ、煎茶をかけて美味しそうに食べた父・鴎外のこと、ものの言い方が切り口上でぶっきら棒、誤解されやすかった凄い美人の母のこと、カルチャー・ショックを受けたパリでの生活、〈しんかき〉〈他所ゆき〉〈足弱伴れ〉などなつかしい言葉と共にあった日常のこと―。
記憶の底にある様々な風景を輝くばかりの感性と素直な心で描き出した滋味あふれる随筆集。
アマゾンより引用
感想
森茉莉は森鴎外の娘さんで、この随筆集には父親とのエピソードがいくつか入っている。
森鴎外は自分の子供を溺愛してことで有名だが、子供達も父親を深く愛していたらしく、父親のことを書いた文章はかなり面白い。「溺愛」を通り越して「盲目の愛」という印象。
しかも、それを恥ずかしいこととして書いているのではなく、自慢気に書いてあるのが面白い。ここまでくると、感覚が違うと言うレペルを通り越して「自分とは違う不思議な生き物」って感じだ。
中途半端な「不思議ちゃん」にはイライラさせられるが、ここまでぶっ飛んでいると、むしろ楽しい。
しかし面白がっていられるのは、遠巻きから眺めていられるからであって、森茉莉の身近にいた人は、たまったものでは無かっただろうと思う。
わがままで自由奔放…というのも、若くて綺麗な間は笑って見過ごしてもらえるけれど、ある程度年を重ねると、そうも言っていられないものだ。
なんとなく悪口ばかり書き連ねてしまったけれど、森茉莉は育ちが良いだけに鷹揚なところがあって本質的なところで悪意が無いのは素敵だと思う。
古めかしくて乙女チックな文章は美しくて気持ちが良い。浪漫派の乙女がいたら是非ともオススメいたしたく。
なんだかんだ言って、読んでいて楽しい随筆集だと思う。
甘いお菓子でもつまみながら気楽に読み流すのに最適な1冊だと思う。