小池昌代は私が新刊を楽しみにしている作家の1人なのだけど、今回も「ううむ」と唸ってしまうほど面白かった。
小池昌代の作品は決して派手ではないし、物語自体は淡々としていて起伏は少なめなのだけど、感覚に訴えてくる系の文章で他の作家さんに似た人がいない。
小池昌代は作家であると同時に歌人でもあるので、普通の作家さんとは感覚が少し違う気がする。
計算高い文章なのに、どことなく野性味を帯びているところが小池昌代の「らしさ」だと思う。
かきがら
- 7篇の小説が収録された短編小説集。
- 表題作『かきがら』はコロナ禍の世に生きる市井の人を描かれている。
- 性的な感覚に訴える作品、短歌に絡めた作品が多め。
感想
今回読んだ『かきがら』に収録されている作品はどれもこれも面白かったのだけど、私が1番気に入ったのは題名にも繋がっている『がらがら、かきがら』。
そもそも、本の題名になっている「かきがらって何のこと?」って話だけど、漢字で書くと牡蠣殻にあたる。要するに牡蠣の殻。『がらがら、かきがら』では、主人公の中年女性が年上の男友達に招かれて牡蠣フライを食べる光景が描かれている。
これは『がらがら、かきがら』に限ったことではないのだけれど、小池昌代の作品はどことなくエロティックだったり、性の匂いがする。
『がらがら、がらがら』では、牡蠣の身のことを陰嚢に例えている。だけど決して下品ではなく「ああ…ってそうですね」くらいの感覚で受け入れることが出来るから不思議だ。
そして読後に牡蠣フライを大皿に盛って食べたくなってしまった。「牡蠣フライは美味しいね」って話ではなかったのに。
- 牡蠣フライを食べる人
- 黙々とYシャツにアイロンをかけるひと
- 弓を射る人
- おにぎりを握るひと(作中では「おにぎりをむすぶ」と表現)
……特別なことをする登場人物は1人もいないのに、どれもこれも切り口が独特で面白かった。
小池昌代の描く世界は自分の感覚に似ているような気がするくせに、よくよく読み込んでみると全く似ていない。だけどその「自分とは違う感覚」を味わうのが癖になってしまうのだ。
図書館で借りた本だけど、資格試験が終わったら自前で買って手元に置いておきたい。それくらい面白かったし気に入ってしまった。