ちょっと待ってよ椰月美智子。直木賞を差し上げた過ぎる。
初めて読んだ『伶也と』が衝撃的だったので、なんとなく追いかけているのだけれど、どんどん上手くなっている気がする。
『純喫茶パオーン』は題名を聞いた時「あ~。はいはい。食べ物小説流行りですよね。昨今ありがちなお洒落カフェを舞台にした自分探し中のOLが主人公の成長小説ですかね?」くらいに予想していたけれど、全然違ってた。
入試問題に採用されても不思議でなはない感じの青春小説で大人が読んでも面白かったけれど、中高生にも読んで欲しいと思った。
読了後、中学1年生の娘にも「これ面白かったよ」と勧めてしまったくらい。
純喫茶パオーン
- 物語の舞台は創業50年(おおよそ)の喫茶店「純喫茶パオーン」。店名の由来は「パオーン」と言う象の鳴き声(?)とのこと。
- 表面張力ギリギリで運ぶ「おじいちゃんの特製ミルクセーキ」と、どんなにお腹がいっぱいでも食べたくなっちゃう「おばあちゃんの魔法のナポリタン」が看板メニュー。
- 主人公は店主の孫である来人。小学校5年生からスタートして、来人が大学生になるまでの成長譚。
感想
物語の舞台であり、小説のタイトルにもなつている『純喫茶パオーン』は昭和・平成・令和(令和の表記はないので、これは私の推測)に渡って営業を続けている昔懐かしい喫茶店。
昭和の頃にはチェーン展開していなくて、経営者家族だけで切り盛りしている喫茶店がどの街にもあったものだけど、最近はとんと見掛けなくなってしまった。
主人公の来人は頭が良いってほどでも悪いってほどでもない感じ。どこにでもいる小学生。祖父母の経営者する喫茶店を手伝っていて、物語は喫茶店パオーンと来人少年を中心に進んでいく。
『純喫茶パオーン』は登場人物が魅力的。
- 変な方言を使う喫茶パオーンの店主(祖父)
- 料理上手で最高のナポリタンを作る祖母
- 私立中学に進学する来人の友人の琉生
- 頭が良い訳ではないけど意外と大人な圭一郎
- セクシャルマイノリティの若者「ゆりちゃん」
- 来人が憧れているマドンナの権守さん
……誰もが「その辺を歩いていそう」な感じでリアリティがある。それでいて魅力的。
主人公の来人少年は物語の狂言回し的なポジションなので没個性的に描かれているけれど、真っ直ぐな心の持ち主なので、なんとなく応援してしまうし、来人の友人達も大人目線で読むと実に可愛くて微笑ましい。
そんな若者達を「いい加減な大人」が付かず離れずの距離で見守っている…ってシチュエーションがこれまた素敵。
物語の筋書き自体は取り立てて珍しいものではないけれど、どのエピソードもバッチリと決まっていて安心して読みすすめることが出来た。
私は1人、私立中学に進学した琉名のエピソードが1番気に入っているのだけれど、読む人によってグッとくるエピソードは違ってくると思う。
『純喫茶パオーン』は昭和・平成・令和の良いと部分だけを抽出して書かれた作品じゃないかな…なんて気がした。一気読みしてしまったのだけど、ゆっくりと味わって再読したい。