『美しき愚かものたちのタブロー』は第161回直木賞候補作。
国立西洋美術館美術館建設をめぐる男達の物語。原田マハは自身が美術館の学芸員(キュレーター)として働いていただけあって、美術館ネタの作品が多いのだけど、今回もその流れ。
原田マハはなんだかんだと作品の多い作家さんだし「そろそろ直木賞でも良いんじゃないの?」と思っていたけど、残念ながら受賞ならず。
だけど実際に作品を読むと「これで直木賞はちょっとな…」と思ってしまった。
美しき愚かものたちのタブロー
- 国立西洋美術館、開館60周年に合わせて描かれた、美術館をるぐる物語。
- 日本に初めて「美術館」というを作った松方幸次郎を中心に、国立西洋美術館を作るために奔走した男達を描く。
- 日本人の多くが本物の西洋絵画を見たことのない時代に、松方幸次郎はロンドンとパリで絵画を買い集める。
- 最初は審美眼の無かった松方だが、絵画収集の道先案内人となった田代と出会い、いつしか絵画(タブロー)の素晴らしさに目覚めていく。
- しかし日本は二次世界大戦と突入。絵画どころではない情勢が続くが、男達は美術館建設を諦めようとはしなかった。
感想
読んだ後でアマゾン等のレビューをチェックしてみたけれど、なかなか評判が良さそうな感じ。だけど、私の心にはイマイチ響かなかった。
ノンフィクションとして読むならアリだと思うのだけど、小説としては力弱い気がする。もちろん世の中には「伝記小説」なんてジャンルもある訳だけど、伝記小説を名乗るには、主人公が定まっていないので、それもまた違う感じ。
美術館とか絵画が好きな人なら、それなりに面白く読めるとは思う。
私は「松方コレクション」って言葉は知っていたけれど、松方幸次郎の事は全く知らなかったし、第二次世界大戦前後の美術品の扱いについては興味深く読ませてもらった。
……だけど、それだけだ。
小説が好きな人間が小説に求めるのは知識だけではない。知識と事実を並べるだけなら専門書があれば十分なのだ。事実を元に書いたとしても、小説であるのならもう一歩踏み込むことが必要だと思う。
登場人物の誰かに肩入れして読むことが出来れば良かったのだろうけれど、私には入り込むことができなかった。
所要人物である松方幸次郎が好きになれなかった…ってところも大きいと思う。
「絵画なんてサッパリわからないけど全部買う」みたいな考え方が、どうにもこうにも。
松方幸次郎の絵画感はは人との出会いや経験を通して変化していくのだけれど、純粋な「絵画愛」と言うよりも、国益とかそういうところがメインになっている気がして、個人的にはコレジャナイ感を覚えてしまった。
ちなみに題名になっている「タブロー」とは絵画のこと。私は最初から最後まで「タブロー」と言う言葉に違和感しか抱かなかったのだけど、絵画では駄目だったのだろうか?
「美術業界では昔から絵画のことをタブローと呼んでいたから忠実に再現しました」と言われてしまえばそれまでなのだけど。
しっかりした作品だとは思ったけれど、ことごとく私の好みとはズレていた。
原田マハの作品は私の好みに合うものと、合わないものが入り混じっているので、次の機会に期待したいと思う。