「川端康成が書いた幻の少女小説」って触れ込みだったので、ガッツリと喰いついてしまったりのだけど、実はこの作品。作者は川端康成ではなく弟子の中里恒子とのこと。
川端康成は赤で筆を入れただけらしい。軽く出版社に騙された感があるのだけれど、ちゃんと調べなかった私も悪かった。復刻版で定価は4725円。
私は中古で購入したのだけれど、図書館で借りれば良かったと激しく後悔したのは言うまでも無い。
乙女の港
舞台は昭和初期、横浜のミッションスクール。新入生の三千子に、ふたりの上級生から手紙が届く。品よく儚げな洋子と、負けず嫌いで勝気な克子。ふたりの間で揺れ動く三千子だが―
昭和12年、伝説の雑誌「少女の友」に連載された本作は一大ブームを巻き起こした。少女時代特有の愛と夢、憧れとときめきに満ち満ちた、永遠の名作。雑誌初出時の中原淳一の挿絵を全点収録。
アマゾンより引用
感想
肝心の内容だが、途中まではなかなか面白かった。文章も綺麗だし、女同士の恋の鞘当ても面白かった。
だけど肝心のオチがなぁ……。「お姉さま」の卒業で話が終わるのだけど、重要な事は全く解決していなくて、それなのにハッピーエンド風にまとめられていて納得のいかないラストだった。
吉屋信子の少女小説と比べれば完全に格下だと言わざるを得ない。
それはそれとして。中里恒子が書いた作品を川端康成の作品として世に出ている経緯はちょっと面白い。
いわゆる「盗作」と言う物ではなくて、大御所がお気に入りの弟子に作品を書かせて、自分の名前で出版して売上を弟子に渡す……というのは、よくあったらしいのだ。
売れない新人小説家への助け合い運動……って感じだろうか。
弟子の才能に期待して応援するケースもあったようだが、下衆な話だけれど「愛人の御手当」的な意味でつかわれることもあったとか。
もちろん中里恒子が川端康成の愛人だったと言いたい訳ではない。「そういうケースもあった」ってことが、なんだか吃驚だった。
正直、この作品についてよく調べもせず自前で買ってしまった事については軽く後悔しているが、装丁はとても気に入っている。
箱入りで中原淳一のイラストがとても美しい。コレクションとして手元においておくか、手放してしまうか思案中。
読み物としてはそれほど面白く無かったけれど「昔の文壇」を覗き見るキッカケを作ってくれたと言う意味では、私にとって価値のある1冊だったと思う。