岸政彦は初挑戦の作家さん。「社会学者が書いた大阪を舞台にした作品」との事だったので手に取ってみた。第156回芥川賞候補作。
大阪で暮らす若い人達が主人公。正直なところ「芥川賞が取れなかったのは分かるな」と思ってしまった。
ビニール傘
共鳴する街の声――。気鋭の社会学者による、初の小説集! 侘しさ、人恋しさ、明日をも知れぬ不安感。大阪の片隅で暮らす、若く貧しい〝俺〞と〝私〞(「ビニール傘」)。
誰にでも脳のなかに小さな部屋があって、なにかつらいことがあるとそこに閉じこもる。巨大な喪失を抱えた男の痛切な心象風景(「背中の月」)。
絶望と向き合い、それでも生きようとする人に静かに寄り添う、二つの物語。
アマゾンより引用
感想
リアル…と言えばリアルな作品なのだと思う。
若者の貧困が社会問題になっている昨今、出るべくして出た作品なのだと思う。だけど小説として読むには物足りないし面白くない。
論文を読みたい人は良いのかも知れないけれど、これで芥川賞の候補に挙がる事自体がビックリだ。小説としての形を成していてない作文のような作品だと思う。
淡々としている…とも言えなくないのだけど、心に沁みものがない。
やるせなさとか、切なさとか、やり切れさとか、何か1つでもグッっとくるところがあれば良かったのだけど、何1つ刺さる物が無かった。
「色々あるけど、どっこい生きてます」と言うような、したたかさがある訳でもなく、ただ淡々と出来事が書き進められていく感じ。小説として読ませるにはあまりにも弱い。
昨今は「社会派」な作家さんが流行りなのだろうか?
それだけ世の中に不満を持つ人が多いのだろうし、それはそれで必要な物だとは思うの。
ただ、最近雨後のタケノコのように出てきた社会派の作品って、言いたいことは分かるのだけど作品から迸る熱さが感じられない。
読んでいて義憤にかられるよりも、地獄のミサワのように「へー。ほー。それでそれで」と生暖かい気持ちになってしまうのだ。
作品の内容から離れるけれど、この本。1冊1500円もするのに文字数がべら棒に少ない。
お洒落っぽい白黒写真を入れてみたりしているものの、写真を楽しむタイプの作品ではなく文字数の足りなさを誤魔化しているとしか思えない。
私は図書館で借りたので文句は無いが、これを定価で買ったとしたら「ちょ…ボッタクリ…」としか思えなかっただろう。
新潮社さん、こんな商売してたらイカンですよ。価格を下げるか、もう少し作品数が揃ってから出すか。
読者に対する誠意が感じられない1冊だ。
とりあえず次の作品が出たら読むかも知れないけれど、色々な意味で未熟な印象を受けた1冊だった。