湿っぽい女を描かせたらピカイチの作家さんだなぁ……と再確認してしまった。『ぼっけぇ、きょうてえ』で山本周五郎賞を受賞した後に書かれたせいか前作のイメージがかなり強いのだが、前作とは違った「湿っぽい女」っぷりが素晴らしかった。
主人公は元・妾の霊能師。檀那に無理心中をしかけられ、顔を切りつけられたせいで片目を失う変わりに霊感を得る。一話完結ものの連作短編集で、1つ1つの話も面白かったが、全体を通して読むとまた格別な味わいがあった。連作ものは、こうでなくちゃなぁ……という見本のような感じ。坂東眞砂子の作風と似ている部分があるのだが、また違った雰囲気。作者の作風の方が全体的に鬱陶しいし文章のキレでは坂東眞砂子に及ばず……といった感じだが物語に「情」を感じさせてくれるところが魅力だと思う。
恨みつらみも「情」があるからこそ……というようなところに、かえってリアリティを感じてしまった。坂東眞砂子はホラーの名手だが、作者はホラー作家というよりも、むしろ語り部といった方が相応しいように思う。人間の濃厚な思念を文章に託しているような。
この作品では、最後の話で主人公が傷ついた顔を覆っていた被布を「もう必要ない」と思い切るところが、とても良かった。何かを吹っ切れたからといって、それが幸せに結びつくとは限らないのだがそういう小さな積み重ねが大切だと思うのだ。
じめじめと鬱陶しい雨の日に、じめじめと読むのが似合いそうな作品だった。