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映画『蒲田行進曲』感想。

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映画『蒲田行進曲』はつかこうへいが芝居の台本として書いた『蒲田行進曲』をベースに作られた作品。『蒲田行進曲』は小説化もされていて1982年(昭和57年)には第86回直木賞を受賞している。

映画だけでなく、テレビドラマ、宝塚など幅広い形で再現されているので映画版の『蒲田行進曲』はその中の1ジャンル…という位置付け。

2026年に大阪松竹座が閉館することを受け『さよなら大阪松竹座 特別名画上映会』という上映会があり、その中で取り上げられていた。「大阪松竹座を惜しむ会に相応しい作品を観よう」ということで劇場へ足を運んで『蒲田行進曲』を鑑賞したので、感想を残しておきたい。

大阪松竹座

大阪松竹座

『蒲田行進曲』は往年の名作映画…ということで今回はネタバレに配慮しない感想になります。ネタバレNGの方はご遠慮ください。

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蒲田行進曲

蒲田行進曲
Fall Guy
監督 深作欣二
脚本 つかこうへい
製作 角川春樹
出演者 松坂慶子 風間杜夫 平田満
音楽 甲斐正人
主題歌 オープニング:松坂慶子・風間杜夫・平田満
「蒲田行進曲」
挿入曲:中村雅俊「恋人も濡れる街角」
公開 日本 1982年10月9日

あらすじ

舞台は1980年代初頭の東映京都撮影所。大部屋俳優のヤス(平田満)は、同じ撮影所で働く人気スター・銀四郎(風間杜夫)に密かに想いを寄せていた。しかし銀四郎は、ヤスが崇拝してやまないスター女優・小夏(松坂慶子)と交際していた。
ある日、小夏は銀四郎の子を妊娠する。しかし銀四郎は新しい女優と関係を持っており、小夏を厄介払いしたいと考えていた。そこで銀四郎は舎弟のような存在であるヤスに「小夏と結婚してくれ」と半ば強引に頼み込む。銀四郎への盲目的な忠誠心からヤスはこれを承諾し、他の男の子を身籠もった小夏と結婚する。
貧乏なヤスと小夏の同居生活が始まるが、最初はぎこちなかった二人は次第に本物の夫婦のような情愛を育んでいく。小夏もヤスの不器用だが真っ直ぐな愛情に心を動かされていく。
そんな中、ヤスは時代劇の撮影で「階段落ち」という危険なスタント(長い石段を転げ落ちるシーン)を任される。大部屋俳優にとって大きなスターへの登竜門とも言えるこの大役を、銀四郎はヤスに押しつける。ヤスは恐怖を感じながらも、銀四郎への忠義と自分の俳優としての意地にかけて引き受ける決意を固める。
出産を間近に控えた小夏は、ヤスの命がけの「階段落ち」を前に複雑な思いを抱えながら、二人の関係と自らの未来を見つめ直すのだが……

古き悪しき昭和

私は『蒲田行進曲』の舞台も映画も履修済みなのだけど、一緒に鑑賞した夫は55歳にして初めて『蒲田行進曲』に触れた。その夫の第一声は「昭和の悪いところ全部盛りの映画って感じ」だった。

確かに『蒲田行進曲』みたいな作品を令和で作るのは無理だと思う。飲酒、理不尽な暴力、女性蔑視。昭和の悪いところをギュギュッと詰め込んでいる…と言われてしまえば反論の余地がない。

そもそもテーマになっている「階段落ち」なんて「人の命を何だと思ってるんだよ?」という話。「人の命は地球より重い」どころか「1人くらい死んだって代わりはいくらでもいる」という発想。令和のお子様が観たら訳が分からない世界観だと思う。

私は「あの頃は良かった」なんて言うつもりは無い。普通に駄目だと思う。だけどそんな世界観の中で懸命に生きてきた人達を否定する気はない。

愛ゆえに狂う人達

つかこうへいは「男に惚れる男」を書くのが好きなのだと思うのだけど、ヤスは銀ちゃんに心底惚れている。ヤスが階段落ちした後、ボロボロになって階段を這い上がっていく場面でヤスが銀ちゃんに対して言った言葉は「銀ちゃん、カッコイイ」なのだから狂っているとしか思えない。愛でしょ…これは愛でしょ?
愛に狂う男ヤス…しかもヤスは決して報われないのだ。
そしてもう1人報われないのがヒロインの小夏。銀ちゃんから軽く扱われていて都合の良い女でしかないのに、それでも銀ちゃんを好きでいつづける女…。
恋人の舎弟に払い下げされるとか、奈良時代の話じゃねぇんだぞ。普通に考えたら銀ちゃんの横っ面張り倒して別れたら良いと思うのだけど、それでも小夏は銀ちゃんが好きなのだから仕方がない。
小夏もヤスも銀ちゃんが好き。銀ちゃんが好きな2人が夫婦になるというのだから、こんなおかしなことはない。つかこうへい…天才過ぎる。

松坂慶子の声と色気

改めて『蒲田行進曲』を観てビックリしたのは松坂慶子の声の良さ。名女優って見た目の良さだけでなく「声」が良いと思う。松坂慶子の声は甘くて聞いていて心地よい。そう言えば薬師丸ひろ子も松坂慶子と方向性の同じ声だけど、薬師丸ひろ子もまた名女優だと思っている。

そして何なのあの色気。松坂慶子って決して胸が大きい訳じゃない。言うなれば「ほどほどのオッパイ」というところだと思う。それなのに猛烈に色っぽい。あの色気は何なんだろうね? そして、あんなに色っぽい女に対して酷い扱いが出来る銀ちゃんは犬畜生にも劣ると思う。私だったら銀ちゃん、ぶん殴ってるね。

女達のいじらしさ

『蒲田行進曲』には名場面が沢山あるのだけど、私が大好きなのはヤスと小夏がヤスの田舎に帰る場面。ヤスは銀ちゃんの子をお腹に宿した小夏を田舎に連れて帰る。田舎ではもちろん、お腹の子はヤスの子…ということになっている。
田舎の人達に盛大に迎えられた小夏とヤス。何もかも上手くいった…と思っていたその夜。ヤスの母は「お願いだからヤスを裏切らないでやって欲しい。あの子は優しい良い子だからお願いします」と小夏に頼む。
ヤスの母は「小夏のような女が息子を好きになる訳がない」と最初からお見通しだったのだ。お見通しなのにそれでも「息子を裏切らないで」と懇願する母の姿に泣けてくる。
そして母の想いを受けた小夏は銀ちゃんへの想いを抱えたまま、ヤスの妻として生きていこうと決意。小夏…いい女過ぎる。現実的なことを言うと「いい女=都合のいい女」ではあるのだけど。

人の心の複雑さ

古き悪しき昭和を体現したような作品『蒲田行進曲』は現代的な物の考え方や価値観からすると「訳わからん」「意味不明」な部分はあるものの、それでも観た後に何か心がざわつくというか落ち着かない感じがするのも事実だ。

  • 銀ちゃんが好きなヤス
  • 銀ちゃんが好きな小夏
  • ヤスと小夏を惹きつけて止まない銀ちゃん

人の心は自由ではなくて「ヤスと小夏が互いに慈しみ合って生きていけばいいのでは?」ということにはならないのだ。人の心はすれ違うものだし、恋する気持ちは止められない。つかこうへいの真骨頂は「ままならない人の心」を描き出しているところだと思う。

なお自分勝手でどうしようもない男である銀ちゃんもまた、自分の中にままならない物を抱えて生きているキャラクターで、そのあたりのことが知りたい方は『蒲田行進曲』の続編にあたる『銀ちゃんが、ゆく』に触れてみることをオススメする。

取り壊される大阪松竹座で「古き悪しき昭和」の姿が鮮やかに映し出された『蒲田行進曲』を観たのはなかなか貴重な体験だった。

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