『八犬伝』は山田風太郎の小説を原作とした日本映画。滝沢馬琴が書いた『南総里見八犬伝』とか、昭和の角川映画で薬師丸ひろ子主演していた『里見八犬伝』とは全く別物。
ザックリ説明すると『南総里見八犬伝』をめぐる滝沢馬琴と愉快な仲間たち…みたいな感じの作品。
巷ではあまり良い評判を聞かなかったのだけど滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』も薬師丸ひろ子が主演していた『里見八犬伝』も大好きな私としては「観ておかねばならない作品」だったので、Amazonプライムで視聴した。
八犬伝
八犬伝 | |
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監督 | 曽利文彦 |
脚本 | 曽利文彦 |
原作 | 山田風太郎 |
出演者 | 役所広司 内野聖陽 土屋太鳳 渡邊圭祐 鈴木仁 板垣李光人 水上恒司 松岡広大 佳久創 藤岡真威人 上杉柊平 栗山千明 中村獅童 尾上右近 磯村勇斗 大貫勇輔 黒木華 寺島しのぶ |
音楽 | 北里玲二 |
公開 | 日本 2024年10月25日 |
あらすじ
滝沢馬琴は友人の浮世絵師・葛飾北斎に構想中の物語『八犬伝』を語る。
馬琴が構想していた『八犬伝』は里見家にかけられた呪いを解くため、「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の八つの珠を持つ若き八人の剣士たちが運命に導かれるように集結し、壮絶な戦いに挑むという壮大かつ奇想天外な物語。
この物語に魅了された北斎は続きを聞くためにたびたび馬琴のもとを訪れるようになり、二人の奇妙な関係が始まる。
『八犬伝』は物語は瞬く間に人気を博し異例の長期連載となるが、連載開始から25年。物語がクライマックスに差し掛かった時に馬琴は両目を失明し、執筆の継続が困難になるのだが……
虚実入り交じる世界
さて。今回の『八犬伝』は作品の中で滝沢馬琴が書いた『南総里見八犬伝』の物語と映像が再現される場面(虚)と滝沢馬琴が生きた江戸時代の場面(実)が入り混じっている。
なので滝沢馬琴の人生を描くにしても『南総里見八犬伝』の面白さを描くにしても「どっちつかず」な作品に仕上がっているため「物足りない」と感じた人も多かったのではないだろうか。
だけど『南総里見八犬伝』の内容を知らずして馬琴と北斎の関係を表現することは出来なかったと思うので、作品中で場面が行き来してしまうのは仕方がないように思った。
『南総里見八犬伝』が『桃太郎』レベルで知れ渡っているのであれば内容をすっ飛ばしても問題無かったかも知れないけれど、そこまでメジャーな物語ではないので『南総里見八犬伝』があの時代において、どれだけ凄い物語だったのかを説明する必要があったのだ。
『南総里見八犬伝』の物語の面白さに脳を焼かれてしまった人…ある意味、人生を狂わされてしまった人達が「どうしてもこの物語を完結させたい」「この物語の先わ読みたい」と滝沢馬琴と関わっていく。
『ミザリー』と似てるかも
1つの物語に入れあげて作家につきまとう…と言うとスティーブン・キングの『ミザリー』を思い出してしまうのだけど『ミザリー』が陰の世界なら『八犬伝』は陽の世界。
馬琴と北斎の関係も同じで「天才は天才を知る」と言うところもあったろうけど「八犬伝の続きを読みたいんじゃぁぁぁ」ってところが大きかったのだと思う。
馬琴の息子嫁、お路の献身にしたって同じこと。お路には「この素晴らしい物語を世に送り出さねば(使命感)」みたいな気持ちがあったのだと思う。いくらなんでも「嫁の責任感」くらいの話では、あれだけの献身は出来なかったと思う。
今も昔もヲタクが持つ謎のパワーは気持ち悪いくらい凄い。
私自身がヲタクなので北斎の気持ちもお路の気持ちもよく分かる。たかが創作物。されど創作物。作品に脳を焼かれてしまったヲタクは何だって出来るし、神(作者)を崇めるものだ。それは古今東西変わらないらしい。
角川映画『里見八犬伝』との比較
私は子どもの頃に映画館で角川映画の『里見八犬伝』を観た人間なので『里見八犬伝』とも比較しておきたい。
これはもう「原作の映像技術は素晴らしいですね!」の一言に尽きる。
現代の映像技術を持ってすれば『南総里見八犬伝』のぶっ飛んだ設定もキッチリ表現出来てしまうのだ。「八犬伝」の描写ターンは感涙ものだった。ただただ素晴らしい。
角川映画版の『里見八犬伝』(原作・鎌田敏夫)を今の技術で作り直したら素晴らしいものが出来るのだろうなぁ。
『八犬伝』が公開された時に「滝沢馬琴のターンと創作内容のターンが入り交じっている」ってところ納得がいかなかった人の中には、角川映画版を観ていた人も含まれていたと思う。
角川映画版は滝沢馬琴の書いた『南総里見八犬伝』とは少し違っているものの、大筋は同じなので「里見八犬伝の世界を楽しみたいんだぁぁぁ」って人は、映像技術が古いのを覚悟で是非とも角川映画版の『里見八犬伝』を観て戴きたい。ご満足戴けるかと思う。
『八犬伝』は何が失敗だったのか?
『八犬伝』がイマイチ評価されなかったのは、映画の宣伝にもあると思う。予告編等で八犬士が活躍する場面をバンバン流しいたのが良くなかった。最初から「これは1人の作家に入れあげた人々と『南総里見八犬伝』と言う物語が世に送り出された経緯を描いた作品です」ってとろを全面に出すべきだった。
あんな派手な予告編を観ちゃったら一大スペクタクルドラマを想像しちゃうよね。
そしてさらに言うなら、もっと滝沢馬琴と仲間達の描写を濃くするべきだったかな…とも思う。馬琴と北斎の関係とか馬琴の親子関係とか人間関係的にエモいものがあるのに生かし切れなかったのが残念だった。
私自身、滝沢馬琴が書いた『南総里見八犬伝』が好きな人間なので、何だかんだと楽しませてもらったけれど映画の評価としては「なんか色々と惜しいな」としか言えない。「美味しい食材に美味しい食材を組み合わせたら極上の料理が出来るはずなのに、思ったほどでもなかったな」って感じに似ている。
休日の午後などに気楽に観るくらいが丁度良いんじゃないかと思うので、気になる方は観て戴きたい。