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映画『ひとくず』感想。

1.5
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映画『ひとくず』は「劇団テンアンツ」を主宰する俳優の上西雄大が監督、脚本、主演などを務め、児童虐待や育児放棄をテーマに描いたドラマ映画。2019年のミラノ国際映画祭で最優秀作品賞、外国語映画部門の最優秀男優賞を受賞している。

監督の上西雄大は3歳まで戸籍がなく、実の父親が母親に日常的に手をあげているのを見て育った実体験を作品に生かしているとのこと。

大阪では2023年秋頃から各地のコミュニティセンター等で上映会が開かれていて、テーマが児童虐待ってことなので、児童福祉の仕事をしている身としては「これは観ておかなきゃ駄目なヤツかな?」と言う使命感に駆られてアマゾンプライムで試聴した。

各所で絶賛されていたようだけど、私自身の感想は「正直微妙…と言うか、実のところ嫌いな部類の作品だね」って感じだった。

そんな訳なので今回はディスり気味の感想。さらに言うなら盛大なネタバレ込なのでネタバレNGの方はご遠慮ください。

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ひとくず

ひとくず
監督 上西雄大
脚本 上西雄大
出演者 上西雄大 泉谷しげる 木下ほうか
小南希良梨 古川藍 田中要次
音楽 ナ・スンチョル
主題歌 吉村ビソー
「Hitokuzu」
公開 2019年製作/日本
上映時間 117分

あらすじ

鞠は母親の恋人から虐待を受け、母親からは育児放棄されていた。

ガスも電気も止められた家に置き去りにされた鞠のもとに、ある日、さまざまな犯罪を繰り返してきた男・金田が空き巣に入る。

幼いころに自身も虐待を受けていた金田は鞠の姿にかつての自分を重ね、自分なりの方法で彼女を助けようとしていたのだが、鞠を虐待していた母親の恋人を殺してしまう。

実は鞠の母親である凜も実は幼いころに虐待を受けて育ち、そのせいで子どもとの接し方がわからずにいた。

金田と凜と鞠の3人は不器用ながらも共に暮らし始め、やがて本物の家族のようになっていくのだが…

児童虐待のリアル

とりあえず。『ひとくず』の良かった点を書いておこうと思う。

児童虐待をテーマにした作品…って意味ではリアリティがあって良かったと思う。虐待児童のパターンとしては「ああ…あるあるですね」って感じだったし。母親の様子も「ホント、それな!」感が凄かった。

ただし、それと同時に「児相(児童相談所)を舐めんなよ?」とも思った。

児童相談所と言っても地域差があると思うので「日本全国こんな感じです」とは言い難いところがあるけれど、私の住んでいる地域(大阪府)の児相はかなり優秀。『ひとくず』のようなケースが飛び込んできたら、間違いなく保護者から離される。

実際、私は『ひとくず』ほどのケースじゃなくて、保護者が「もうしません」と懇願しても無慈悲に親から引き剥がされたケースを目の当たりにしている。それは児相が悪いのではなくて「子どもの幸せ(福祉業界的には子どもの福祉)」を最優先に考えての措置だった。

テレビやインターネットのニュースだと、どうしても面白美味しく不幸な話ばかりが取り上げられてしまうけれど児童相談所の仕事は一般的な人が考えるよりも優秀だし、鞠みたいな少女がいれば確実に保護される。

映画だから仕方がない…とは言うものの、物語を面白おかしくするために歪めてる気がした。

負のループの恐ろしさ

物語の中で鞠の母親は「自分自身、ロクな育てられ方をしていないから子どもの愛し方が分からない」と告白している。これは本当に児童虐待の現場では「あるある」なこと。いわゆる「負のループ」ってヤツだ。

だけど私はそれでもなお、鞠の母親を擁護する気にはなれなかった。

「あんたが手に持ってる平べったい板は何なのよ?」

  • 子どもの愛し方が分からない
  • 何をしていいか分からない
  • 誕生日に何をするべきか分からない

……なんでもスマホで検索すれば良いのでは? インスタとかLINEできるくらいの知能があるなら、分かるはず。何ならTikTokでもいい。

底辺層の世界を描いた作品って、どうしても「彼らはこんな風にしか生きられなかったんです。だから仕方ないんです」みたいな解釈をしがちだけれど、どんなに不幸な状況であっても「やってはいけない事はやっちゃ駄目」だし、罪が軽くなる訳じゃない。

普通の人の方が偉いんだからね!

『ひとくず』が評価されたところの1番のポイントは愛を知らずに生きてきた「かねまさ」が鞠と出会ったことで愛情を知り、鞠のために真っ当な人間として生きようとしたところにあると思う。

素晴らしい…実に素晴らしい。

だけど私は個人的にイマイチその辺のところを素直に評価できなかった。昭和的な表現かも知れないけれど「不良がたまに掃除したら称賛される」みたいな感じ。

普通の人は誰かに称賛されなくても、誰かに強制されなくても悪いことをしないし真面目に働くし我が子を愛して守ろうと努力するのだ。

「普通の人の方がもっともっと偉いんだからね!」そんな気持ちでいっぱいになってしまった。

…とは言うものの。私も頭では理解はしているのだ。

私が憎んでやまないそういう輩が更生しようとした時は全力で褒め称える必要がある…ってことを。そうしないと彼らは一生更生しないってことを。

なので『ひとくず』が描こうとしている物の方向性は正しいと思っている。要するに私がそれを心の底から称賛できない…ってだけの話なのだ。

強引なハッピーエンド

さて。私が『ひとくず』に対して決定的に「フザケンナ!」と思ってしまったのはラストだった。

  • かねまさが警察につかまる→分かる
  • かねまさが刑務所に入る→分かる
  • 鞠はかねまさを待っていた→分かる
  • 鞠の母親は更生してかねまさの母と暮らしている→?

ラストシーンは刑期を終えたかねまさの出所が描かれているのだけど、刑務所を出てきたかねまさを鞠と鞠の母親が迎えに来ている。そして鞠の母親は更生して、介護の仕事についていて(と思わる)、かねまさの母親の車椅子を押して颯爽登場!

…おい、待てよ。「男がいないと生きていけないの」って設定の女が地味でブラックな介護職に飛び込んで、シングルマザーで子どもを育てて、さららに老人介護までやるとか、どんなファンタジーよ?

なまじ福祉業界に身を置く私はラストシーンで鼻白んでしまった。福祉業界を舐めないで欲しい。

そして、そんなな簡単に事が運ぶ世界なら『ひとくず』のような悲劇はおこらないのだ。この作品…もう根本から破綻している。不良の更生物語を作りたいなら、それもアリだと思うのだけど、もう少しリアルに寄せて戴きたい。

似たようなテーマを持ってきていても是枝裕和の『万引き家族』『誰も知らない』『怪物』にはリアリティがあったけれど『ひとくず』にはリアリティが無かった。

一流の作品とそうじゃない作品の違いって明確にあるのだなぁ。

『ひとくず』は私にとって面白いとは思える作品ではなかったものの「映画鑑賞の指針を知る」って意味で発見の多い作品ではあった。

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