地味ながらもグッっとくる短編集。
色々なタイプの「マタギ」が登場して、それぞれに熊と対峙する。
自然の脅威がテーマだったり、男の生き様がテーマだったり、あるいは人間の業のようなものがテーマだったり。密やかに展開される世界が、非常に魅力的だった。
この作品と同じく、熊をテーマにした『羆嵐』と較べると、かなり小ぶりな印象。
『羆嵐』の時は、熊の恐ろしさに震えたものだが、今回は熊よりも人間にウェイトが置かれていて、エンターティメント性は低いものの『羆嵐』よりも、文学的だと言えるかも知れない。
熊撃ち
口数が少なくて、孤独を好む「何を考えているか分からない」ようなマタギ達が、ちらりと見せる人間的な感情が印象的だった。
自分語りをしないからこそのチラリズムって感じだろうか。
怒りや哀しみが、染み入るように入り込んでくるところにゾクゾクしてしまった。淡々と物語を追って行く形式がとても良いと思う。これぞ吉村昭の真骨頂。
個人的には大絶賛なのだが、ファンとしての思い入れを抜くとどうかなぁ……といういう印象。
何しろ地味過ぎるのだ。誰にでも「面白いから読んでみてよ」とは言えない作品。ある種の人にはツボかも知れないが、一般受けはしないような気がする。
しかしながら、私にとっては満足のいく1冊だった。