大山淳子は初挑戦の作家さん。そこそこ作品数があると思うのだけど、不思議と今まで手に取らなかった。
今回は『通夜女』なんて言う不幸そうな題名に惹かれて手に取った。
韓国や中国には「泣き女」と呼ばれる職業があると聞くけれど『通夜女』は職業としての通夜女の物語ではなく「他人の通夜が好きで片っ端から通夜に参列する女」の物語だった。
ちなみに通夜女と書いて(つやめ)と読む。
通夜女
- 主人公は24歳のニート女性、小夜子。
- 小夜子は大卒時に就職活動で失敗して以来、引きこもりの生活をしている。
- 弟の結婚式にいやいや出席後、道に迷ってしまい、他人の通夜に遭遇する。
- 悲しみが溢れる通夜の席は小夜子にとっては心地よい場所となった。
- 以降、小夜子は他人の通夜に通いはじめる。
- 通夜を通して再生するニート女性の成長物語。
感想
なかなか攻めめた感じの題名なので必要以上に期待してしまったけれど、ひと言で言うと成長小説だった。
ニートの女性が変わった体験をすることで、自らの殻を破って自分の人生を歩みだす…と言う、なかなか良く出来た物語だった。
しかし私にはコレジャナイと言うか、どうにも主人公に共感することが出来なかった。
実は私も新卒で就職活動に失敗している。
1年前の先輩達はバブル最後の年で、それこそ「内定を断るのが大変」って感じだったのに、私の年代は手のひらを返したような状況。当時、私は要領の悪い人間だったので見事に新卒のタイミングを逃しているし、友人の中にも新卒で就職出来なかった人間がチラホラいる。
……だけど、みんなそれなりに就職したし、ニートになった人なんていなかったんだなぁ。
主人公の境遇が自分と重なり過ぎたので、どうしても主人公に思い入れることが出来なかったのだ。「就職活動失敗したくらいで引き込りニートとか貴族なの?」としか思えないと言うか。
……私も大人なので分かっている。ニートは社会問題になっていて、この作品はニートの成長小説としては素晴らしいんだろうな…ってことくらい。
あと、やはりどうしても「自分より不幸な人間をみて安心する」みたいな考え方がどうしても好きになれなかった。理解できなくもないけれど「人としてどうなの?」って気持ちが拭えなかった。
もし自分の身内の通夜に、身内の死を悼むのではなく、面白半分に参列する人がいたとしたら…やはり良い気分なにはなれないだろう。
物語の作りは上手だと思ったけれど、私にの好みにはまたく合わない作品だった。
リアルタイムで引きこもっていたり、就職活動に躓いている若者が読めば違った感想になると思うし、需要はありそうだな…とは思う。
よほど気が向いたら大山淳子の他の作品を読んでみるかも知れないけれど、もう読まなくてもいいかな…と思ってしまった。