本を探すのは難しい。とくに自分好みの恋愛小説を探すのは難関中の難関である。
自分の好みにあった恋愛小説を探すのは、自分の口にあったラーメン屋を探すのと似ている。どんなに評判が良かろうが、それ自体の出来がどんなに素晴らしいものであろうが、自分の好みから外れたら外道以外の何物でもないのだ。雑多に食べ尽くす…あるいは読み尽くす人もいるとは思うが、あっさりラーメン好きの人が、背脂ギンギンのこってりラーメンを食べても美味しいと感じないように、どんなに素晴らしい恋愛小説を読んでも、自分のツボから外れたら、感動どころか腹立たしささえ感じてしまう。
恋愛小説を書く作家さんで、いっとう好きなのは中山可穂と言い切って憚らない私だが、じつは彼女の作品に心酔している訳ではない。エキセントリックな恋愛を書かせたら最高だとは思うけど、彼女の書く恋は刹那の恋なのだ。どんなに激しくても、切なくても、その感情にはいつか終わりがやってくるし、主人公は新しい恋を追いかけていくのだろうと思うような話が多くて、物語にハマったり、憧れることはあっても、心情的についていけない部分がある。
「私の好みの恋愛小説って、どんな傾向なんだろう?」と常々思っていたけれど、村山由佳の『星々の舟』を読んで「これだ!」と思った。『星々の舟』が良かったと言うのは勿論だけど、それ以上に自分の中にある「恋愛小説のツボ」に気が付いたのだ。
「ずっと1人の人を好きでいつづける」この1点に尽きる。
私は、地味な夫婦愛であろうが、結ばれることのない悲恋でろうが「ずっと1人の人を好きでいながら生き続ける」というのが私のツボのようだ。心中や、恋人が死んでしまう話は除外。「好きだ」という想いを抱えながら生きるという切なさと、強さに涙してしまう体質らしい。今にして思えば心の残る恋愛小説(恋愛がメインでなくても)の主人公達は、いつもこのタイプだった。
もっとも生身の人間、生身の恋愛ともなると、そんな綺麗事は言っていられないのだけれど。小説の世界くらいは、現を忘れて好みに走りたいのである。それにつけても今年は年のはじめから好みの恋愛小説に出会えて幸先がいい。『星々の舟』は、もうちょっと、ゆっくり味わうつもりだ。好みの恋愛小説は、何度読んでも飽きないし味わい深いから不思議である。