短編小説1篇だけを1冊の本とし作られた贅沢な一冊である。
長年連れ添った1組の夫婦の物語……もとい妻に先立たれた男の物語である。
物語の筋をズバリ言ってしまうならば夫が妻にたいして屍姦をするだけの物語である。「屍姦」という言葉を辞書で調べてみると「異常性愛」なんて単語で説明されていて実際、ぼんやりを日常を生きている人間にとっては衝撃的な言葉だ。
この作品で主人公は死体愛好者であるとか、そいうい訳ではない。屍姦はサラッと表現されていて「ある愛の形」という印象を受けるので実際に読んでみると、それほどエグイものではなかった。
半所有者
- 長年連れ添ったとある夫婦。
- 妻が先立ち、夫は妻を見送る。
- 妻の葬儀の前夜、夫は妻を死姦する。
感想
読了してみての感想は「よく分からない」のひとことに尽きる。
私は独身者なので、夫婦愛の機知というのは理解できないという部分もあるが、それにしても「屍姦」を普通の出来事のようにサラリと書かれてしまっては、どういう風にとらえていいのか、よく分からなくなってしまったのだ。
人間には、誰もが多少なりともアブノーマルな部分を持っていると思うし、それは当たり前なことであって、恥じることではないと思う。
この作品の場合は「アブノーマルな性」を描いている訳ではないあたりが、どうにも、こうにも不思議な味わいになっていると思うのだ。
もし私が妻の立場であったとして、夫に屍姦されたら、どんな風に思うだろうか?
……などということを思わず考えてしまった。
私なら、嬉しくもなく、哀しくもなく「あら、まぁ」って感じかも知れない。逆に私が、伴侶の死体に欲情するかどうかということを考えると、それは「NO」だとキッパリ言い切ることが出来るのだけど。
やはりこの辺の感覚は、個人的な感受性によるものなのだろうか?
作中で「死体の所有者」について、法律を通して書かれている部分があるのだが私の中では「人間は死んでしまったらオシマイ」という意識を持っている。
そのため、所有者云々については考えたこともなければ死体であっても、故人は個人であり、誰のものでもないような気がするので所有にこだわる主人公の考えに対して「そういう考え方もあるのだなぁ」という印象しか持てなかった。
一読した後で、よくよく考えてみると、この作品は「夫婦の愛」「人間の性愛」を描いているように見せかけてその実、根の暗い性欲だの、アブノーマルな部分だのを思い切りよく描いたものに過ぎないようにも思った。
「夫婦愛」を隠れ蓑にして、好き放題に自分の世界を書いたのではないか?などという憶測をしてしまったりもするのだ。
小説自体の面白さよりも「あなたは、どう感じましたか?」と色々な人に感想を聞いてみたいと思うような1冊だった。
もっとも「これ読んで」とは言いにくいところがネックになるだろうけれど。