逢坂冬馬の作品は『同志少女よ敵を撃て』『ブレイクショットの軌跡』がやたら心にグッときたので「新刊まだかなぁ~」と待っていた。今回は短編集。Xで新刊案内と共にサイン会のお知らせがポストされたので、今回はサイン会に参加してみた。

『その犬をください』サイン本
ざっくり説明すると犬にまつわる連作短編集。犬好きな人には刺さると思う。「犬」がテーマだと知った時は「なんだか逢坂冬馬らしくないテーマだな」と思ったけれど、実際に読んでみたら今まで発表した作品とテーマが一貫していて「なるほど。やはり逢坂冬馬はこういう路線なんですね」と納得させられた。
その犬をください
- 犬をテーマにした連作短編集。『未開の咆哮』『忠犬誕生』『犬たちの戦争』『スランプ』の4篇収録。それぞれの短編は時系列に沿って次の物語へと繋がっていく。
- 『未開の咆哮』明治初期、日本に英語を教えにやってきたイギリス人教師が文明開化の日本で見た犬と、日本人が見たイギリスの犬の姿を描く。
- 『忠犬誕生』昭和7年、渋谷駅の老犬の記事からハチ公ブームが広がるのだが、そこには国家としての思惑があり、本来のハチの姿が遠ざかっていく。
- 『犬たちの戦争』第二次世界大戦中、坂間家は犬のドーラクの供出が求められるのだが、明少年はどうしても犬を手放したくなくて……
- 『スランプ』時代は変わって令和初夏。進学校に入学した楓はせっかく入学した高校に行けなくなってしまう。そんな中、楓の家で飼っている引退警察犬リッキーも元気がなくなっていて…
感想
『その犬をください』は題名から察することができるように「犬」が大きなテーマになっているけれど、犬小説ではなかった。
逢坂冬馬は『同志少女よ敵を撃て』や『歌われなかった海賊へ』で戦争を描き、『ブレイクショットの軌跡』では人間をカテゴライズすることによる差別を描いてきたけれど、『その犬をください』では、その両方を突っ込んできた。
1つ1つの短編については手堅く面白かったし、逢坂冬馬が犬好きなんだなぁ~ってことが伝わってきた。作品の主要人物達が漏れなく「いい奴」揃いなのは今作もホントそれ。逢坂冬馬って人は善性の強い人なのかな? ついつい汚いこととかズルいことを考えがちな私からすると、なんだか眩しく感じてしまう。
どの作品も良かったけれど私が1番気に入ったのは『未開の咆哮』だった。読後「動物(犬)にとって本当の幸せって何なんだろうか?」と考えさせられるような1冊で、作品の方向性こそ違うけれど松永K三蔵の『カメオ』と通じるところがあるように感じた。
それにしても逢坂冬馬。イマドキの作家さんの中では稀有な存在だなぁ……と感心した。戦争とか差別とかをテーマに書くのって大変なことだと思う。楽しいテーマではないので、しょっちゅう読みたくなるような作品ではないけれど、世の中に必要な作品だとも思う。『その犬をください』は連作短編集で読みやすいけど、なんだか重たくて読み終えるのに時間がかかってしまった。
個人的には短編集よりも長編小説が好きなので、次は長編小説がいいなぁ……と思っている。新作に期待。



