宝塚歌劇、月組公演『RYOFU』『水晶宮殿(クリスタルパレス)』を観劇した。
最近は宝塚大劇場での公演は全て観劇しているものの、いまだ推しもおらず特定の組を推すでもないゆるゆるスタイル。そろそろ推しを作って狂いたいのに今のところ恋に堕ちる気配がない。
今回の公演は友の会2次抽選で当たったS+席(2列目)。いわゆるタケノコ席だったので銀橋の真下と言う浪漫溢れる良席だった。タケノコ席2列目って席番的には2列と表示されるけれど実質的には最前列。

タケノコ席2列
抽選に当たって席を確認した時は「私……死ぬのか? 人生の運を使い果たした?」とさえ思った。
宝塚の感想を書く時は毎回書いているけれど私はヲタクで宝塚歌劇を愛しているものの、ガチガチの宝塚ファンではないのでヅカ用語は使いませんし愛称で呼んだりもしません。
スターは敬称略が礼儀…と考えているので「さん付け」表記はしませんのでご容赦ください。(もちろんご本人と対面で話をする機会があれば『さん』付けでお呼びします)
今回、芝居のネタバレ盛り込みまくりの感想になるのでネタバレNGの方や、真っ白な気持ちで観劇したい方はご遠慮ください。
RYOFU

RYOFU
毎回、ヨーロピアン演目以外の芝居の時は枕言葉のように書いているけれど私は和物が苦手。中国物も同じ。「宝塚はドレスとヨーロピアンな宮殿とか城を観に行くとこ」と思っていて、和物とか現代物は基本的にちょっと好みではない。
しかしですね。今回の観劇はタケノコ席最前列な訳ですよ、セニョリータ。芝居ってのは役者の息遣いを体感できる席で観劇できたら、それだけで感動も倍増ってもんですよ。
「今回の芝居は役者を愛でるのが目的。他のことは全て目をつむる」くらいの気持ちで挑んだ……はずだったのだけど、脚本が良かった。まさか三国志を…しかも呂布を主人公に据えて恋愛ドラマが成立するとは。
脚本が神だった!
思えばもともと宝塚歌劇は「歴史二次創作活動」が大得意な劇団なのだ。
かつて……源義経をモンゴルに渡らせ、静香御前も義経を追ってモンゴルに渡る(この恋は雲の涯まで)なんて言う源義経、二次創作的な作品もあったよなぁ。それを思えば呂布がドラマティックな恋愛をするのもアリなのだ。
発表された時は「呂布と貂蝉で絡ませるのか?」と思っていたら、娘役トップが貂蝉ではなかったので「貂蝉をメインで使わないとなると、どうやって話を組み立てるのだろう?」と疑問に思ったものだ。その疑問……実際に芝居を観てみると、なるほど納得。
ざっくりとあらすじを紹介
屠殺業を生業とし虐げられる人(日本史的に言うなら士農工商の下に置かれた穢多非人)として成長した呂布。彼は「人は動物を殺す時に良心の呵責を感じない。俺は人間扱いされず獣として育った。獣の俺は人間を殺すのに良心の呵責を感じない」と言う思想のもと、武勇で成り上がってきた。
呂布は出世目的で丁原の娘の雪蓮と結婚する。呂布にとって雪蓮は道具でしかない…はずだったのだけど、いつしか呂布は純真で心の美しい雪蓮に愛情を抱くようになる。
これで呂布が心正しく生きていけば良いのだけれど、そうは問屋が卸さない。呂布は丁原を裏切り、一族を皆殺しにする。雪蓮は呂布の命を奪おうと刃を向けるが愛する男を殺すことができずに自ら川に身を投げる。
呂布は丁原を裏切り董卓の元に身を置くのだけど、この董卓もなかなかの悪人設定。
董卓は帝を手元に置いて悪政を敷いていた。王允は密かに董卓を打つべく曹操と通じていたのだが、そのことが董卓にバレてしまう。董卓は王允を殺そうとするが、王允を殺さない条件として王允の娘で美人だと評判の貂蝉を召し出せと要求する。
王允は娘の貂蝉に「董卓のもとに行って寝所で董卓を殺せ」と命じる。貂蝉はそれを了承するのだが「貂蝉の身代わりとして自分が行く」と名乗り出た女性がいた。彼女は王允一家に川に流されて行き倒れているところを助けられて、貂蝉の姉のような形で暮らしていた。川に流される前の記憶は失っていたが、ところどころ高貴な生まれであるような節が見え隠れしていた。記憶を失ったその女性は呂布を愛し、川に身を投げた雪蓮だった。
王允は身代わりの貂蝉を董卓に差し出すことにした。
宴席で初めて貂蝉を見た呂布は自分の妻と瓜二つの貂蝉を見て動揺する。そして貂蝉に話しかけてみるが、貂蝉を名乗る女性は雪蓮として生きた日々の記憶を失っているため呂布のことは覚えていなかった。
毒を塗った簪を手に董卓と共に寝所に入った貂蝉だったが、董卓殺害に失敗。激昂した董卓は貂蝉を殺そうとするが、そこへ呂布が颯爽登場。董卓を殺して貂蝉を助け出す。貂蝉は雪蓮として生きた記憶と呂布への愛を取り戻す。
心通じ合った呂布と雪蓮。しかし連合軍は呂布を打ち、呂布と雪蓮は共に業火の炎に焼かれて物語が終わる。
少女漫画の王道全部盛り
ざっくりとしたあらすじを読んで戴ければ分かるのだけど『RYOFU』は三国志であって三国志ではない。言うなれば「三国志二次創作」。そして少女漫画の王道パターンを全部盛り込んできた。
- 悪人(不良)が純真な心に触れて恋に落ちる
- 死んだと思っていた人が実は生きていた
- 都合良く使われる記憶喪失設定
- 悲恋だけど2人の心は通じ合っているので、ある意味ハッピーエンド
「ここまでやるか?」と唸ってしまった。だけど、そのおかげでちゃんと宝塚になってるし、恋愛ドラマとして成立している。
「赤兎馬のエピソードはどうするのか? 本物の馬を連れてくるのか? それとも作り物で済ませるのか?」と思っていたら赤兎馬のエピソードは概念化されていて赤いコスチュームを着た赤兎馬の魂的なダンスでもって「赤兎馬に魅入られた呂布」を表現していた。お見事だった。
ちょっと面白いなぁ~と思ったのは連合軍の扱い。
三国志で大人気の劉備・関羽・張飛の義兄弟や曹操などは最初と最後にちょろり出てくるだけに留めていて「いっそ出さなくても良いのでは?」くらいなのだけど、少しでも出してきたのは三国志ファンへのリスペクトと配慮だったのかな。特に最後の戦いの前は連合軍が客席に向かって一列に並んで見栄を切るのだけど、本当に「ひと言」だけで去っていくのには笑ってしまった。
月組の芝居
宝塚歌劇は好きだけど芝居好きの私としては「宝塚って芝居がトンチキなことが多いのがなぁ~」と思う公演が多いのだけど『RYOFU』は芝居として成り立っていた。
月組は芝居が上手い…と言われているそうだけど、お流石だった。
トップスターだけでなく、脇役的な皆さんも全員、その役だった。あどけない王子はあどけなく。イケオジはイケオジに。パッと見で「その役だ!」と理解できるようにそれぞれが成り切っていて「俺を見ろ!」「私を見て」ではなかったことは大評価。
これは宝塚だけの話ではないけど、芝居はチームプレイなのに時折芝居の完成度より自分が輝くことを優先させる役者がいる。月組の芝居はチームプレイとして成り立っていて芝居としての完成度が高かった。
娘役が立っていた
宝塚歌劇の脚本って公演によっては娘役トップが空気であることが多い。男役トップとセカンドの絡み中心で話が進んでいって「ところで、この物語に娘役は必要でした?」と首を傾げることが多々ある。
その点、今回の『RYOFU』は最高に恋愛ドラマだった。
そして娘役トップの天紫珠李は前半は宝塚定番の清純派キャラを演じ、後半は妖艶な美女でありつつも意思と覚悟を持った強い女性を演じた。これは娘役トップの腕の見せどころ……ってものだ。
清純可憐なお姫様と妖艶な美女。そして覚悟と愛を持った女性を演じ切ったのは娘役トップとして素晴らしい経歴になると思う。
水晶宮殿(クリスタルパレス)

水晶宮殿
そしてレビューの『水晶宮殿』である。こちらはX界隈では「トンチキ」と言われていたけれど「そうは言っても私は宝塚初心者だし、そもそもレビューの良さを理解できていない人間なのでトンチキかどうかは分からないな」と思っていたのだけど……想像以上にトンチキだった。
開幕直前はかなり良かった。「あれ?トンチキって言われてるけど普通じゃないか。むしろ私は好きかも知れない」と思ったくらい。
衣装は古き良きゲームヲタクの方なら理解できると思うのだけど『ロマンシングサガ』の世界観って感じの色使い。テーマがクリスタル…ってこともあって、スクエアのゲームの世界観が好きな人はハマるかも知れないノリだった。
ところが……である。クリスタルってのは長い時間をかけて形成されるものだ……って発想からきたと思うのだけど、恐竜をイメージした衣装を身にまとったダンスがはじまった時は唖然とした。
- 宝塚に恐竜要素を求めているファンはいるのですか?
- 恐竜の「ガオー」のポーズって誰が喜ぶのですか?
タカラジェンヌ達が身にまとえば謎の恐竜コスチュームもそれなりに見えたものの、正直なところ「もっと他にあったのでは?」と首を傾げてしまった。さらに驚かされたのは恐竜のコスチュームで客席降りを敢行した…ということ。客席降りって最高に盛り上がる場面だと思うだけに「他にあったのでは?」とやっぱり残念に思ってしまった。
ヲタク的に感心したのは水樹奈々メドレーを突っ込んできたこと。宝塚の舞台に乗っかればアニメソングも宝塚になるんだなぁ~と。
宝塚のレビューってボンヤリ観ても楽しいものだけど、ちょっとした素養を持っていたらさらに楽しい。原曲がクラシック曲だったり、オペラだったり。ミュージカルだったり。ジャズアレンジも多い。それらを知った上で宝塚を鑑賞すると楽しさ倍増なのだけど、その要素に『アニメ』も含まれるようになったのかも。
最前列から見えた景色
今回は人生初の最前列で宝塚歌劇を鑑賞したのだけど、最前列でしか見えないものが見えて素晴らしかった。
まず感動したのが「宝塚の舞台の美術や衣装は素晴らしい」ってこと。
『RYOFU』でヒロインの雪蓮が最初に登場する場面。歌のテーマは「梅」なのだけど、何故か雪蓮が手に持っていたのは桜の枝だった。桜の枝を見た時、一瞬「あれっ? これって本物?」と思ってしまうほどに精巧な桜の枝だった。桜の枝ってじっくり見ると横にしましま模様がついているし、さらに見ると小さな点々がついている。雪蓮の持っていた桜の枝は本物かと思うほど、肉眼で見て枝の細部まで桜そのものだった。
衣装や小道具などはいちいち素晴らしかった。衣装ひとつ、靴ひとつ、髪飾りひとつ取っても素晴らしい。それらがどれだけ手を掛けて作られていたのか……なんてことは、後ろの席からでは到底分かるものではない。
タカラジェンヌさん達の個性についても最前列にいるとしっかり観察することができた。スターを目指しているのであれば誰だって「私を見て」って気持ちは強いと思うのだけど、芝居の時は役に徹しているのに、レビューに入ったとたん客席へのアピールが凄くて面白い。
ただし客席へのアピールといっても個性があって「狙い撃ち派」もいれば、一途に純真に自分のカッコイイ(もしくはカワイイ)を貫くタイプもいて「なるほど。これがタカラジェンヌさんの個性なのだな」と感心した。
音の聴こえ方も後ろの席に比べると段違いに良いので、それこそ「役者の息遣いが聞こえる」って経験をすることができた。
そしていつから導入されたのかは知らないけれど、銀橋の奥のオーケストラピットに落下防止の網が設置されていた(指揮者のいるセンター部分だけ網が無いけど)のを知って感心した。銀橋からの落下事故はちょいちょい発生しているので良いことだと思う。昔はさておき令和の時代なのだもの。安全第一は当たり前のことだ。
宝塚歌劇を最前列で観劇した私は「神様ありがとう……私はもう今夜死んでも悔いはありません」と言う感謝の気持ちと「神様ありがとう……願わくば死ぬまでにもう1度、最前列で観劇させてください。できれば次はセンターブロックで」と言う気持ちがせめぎ合っていた。ヲタクの欲望に果ては無いらしい。
なお。こんなに暑苦しく感想を書き散らしているのに今回も恋に堕ちることはなかった。恋に堕ちて私も推しのアクスタと共にあちこちで写真撮ったり、お手紙書いたりしたいのに。無念である。
次の観劇は宙組『黒蜥蜴』。今回のような神席ではないものの、存分に楽しみたい。
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