『PERFECT DAYS』は東京でトイレの清掃員をしている男の日々を描いた作品。役所広司が76回カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞している。
映画公開時は「主人公が掃除をしているトイレがスタイリッシュで凄い」みたいなことが話題になっていたのを覚えている。東京オリンピックを意識して大きな公園などに設置しているトイレをお洒落にしたから、そういうトイレをメインに撮影されたのだろうか。
PERFECT DAYS
PERFECT DAYS | |
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Perfect Days | |
監督 | ヴィム・ヴェンダース |
脚本 | ヴィム・ヴェンダース 高崎卓馬 |
出演者 | 役所広司 柄本時生 中野有紗 アオイヤマダ 麻生祐未 石川さゆり 三浦友和 田中泯 |
公開 | 日本 2023年12月22日 |
あらすじ
東京スカイツリーに近い古びたアパートに住む中年のトイレ清掃員の平山は薄暗いうちに目をさまし毎日同じ手順で身支度をしてワゴン車に乗り込む。
車内ではカセットテープを聞きながら渋谷区内の公衆トイレを転々と巡り、隅々まで磨き上げていく。
若い同僚のタカシは、遅刻したうえ清掃をいいかげんにすませ、通っているガールズ・バーのアヤと深い仲になりたいが金がないとぼやいてばかりいる。平山は仕事が終わると銭湯で身体を洗い浅草の地下の大衆食堂で簡単な食事をすませ、布団の中で文庫本を読む。そんな規則的な日々の中でも平山は小さな楽しみを数多く持っている。
平山の日々は単調だが彼の周囲では小さな出来事が起こっていく……
トイレ清掃員の日々
映画公開当時、トイレ清掃員の平山が掃除をしていたトイレの美しさが話題になっていたけれど、公共のトイレが美しいのは良いことだと単純に思う。
ただその反面『PERFECT DAYS』に登場するトイレは公衆トイレ界だと偏差値75のトイレで圧倒的エリート。偏差値50のトイレ…あるいは偏差値50を切るトイレで撮影されていたら映画の印象は変わっただろうと思う。
それにしても主人公、平山の真摯な仕事っぷりには頭が下がった。
私はどちらかと言うと掃除は丁寧にするタイプの人間だけど、それでも不特定多数の人が使う場所を掃除する…となると抵抗がある。そして掃除を丁寧に行うのって案外難しい。実際、平山の同僚のタカシは「どうせ汚れるんだから、いい加減にやっておけばいい」と言ってる。
掃除の世界は果てがない「どうせ汚れる」のは大前提の話だけど、それでも誰かがやらない訳にはいかないし、誰だって汚いより綺麗な方が気持ち良い。平山が黙々とトイレ掃除に取り組む場面は自宅とは言え、日々掃除をしている私の心にグッときた。
底辺と呼ばれる職業
さて。主人公の平山は実のところインテリなんだけど、トイレの清掃員と言う仕事は世間的に言うと底辺職。公園のトイレで迷子の少年を保護するも、その母親から汚い物として扱われる描写がある。
一般的な価値観で言うと底辺職と呼ばれる職業の人は負け組であり不幸な奴ら…ってなりがちなのだけど、平山は決して不幸ではない。規則立たしい生活の中で日々、ささやかな幸せを楽しんでいる。本を読むこと。植物を育てること。音楽を聞くこと…など。
人間の幸せというものは、その人の心の持ち方によって変わると言われるけれど、平山の生き方はまさにそれ。
- お金がないと幸せじゃない
- 家族がいない人は幸せとは言えない
- 恋人がいない人は幸せじゃない
……こういうのって誰が決めたんだよ?
平山の日々を見ていると「生きてると楽しいことイッパイあるよね」って思えてくる。ちなみに私は平山と古書店の店主がやり取りする場面に心惹かれた。平山が古書店で購入した文庫本。幸田文の『木』は私も同じ文庫本を持っている。平山も古書店の店主も良い趣味してるなぁ~なんて。
平山は善人なのか?
ここまで私は主人公の平山を持ち上げるようなことを書いてきたけど、平山は決して善人ではないのだと思う。
平山がトイレ清掃員という仕事を選んだのには理由がありそう。
それは作品内で解説されていないし「ご想像にお任せします」くらいの匂わせ描写しかないけれど、もともと平山は一般人より裕福な育ちをしていると推察される。
- 絶縁中の妹は「いかにも」な風のセレブである
- 妹は平山を「住む世界が違う」と言っている
- 「好きでしょ?」と渡された手土産は鎌倉紅谷のクルミッ子だった
- 平山は鎌倉の高級住宅街で育った可能性が高い
- 平山は教育を受けたインテリ男である
……などなど。平山は生まれ育った家と絶縁しなければならないようなスネに傷を持つ人間なのだろう。そして同僚のタカシが仕事を辞めると電話してきた場面で無口な平山が突然激昂するところから「平山って、もしかすると前科者なのかな?」と思ったり。
「平山=前科者」って説は私の推察の範囲でしかないけれど、平山が一般的な社会からドロップアウトした人間であることは間違いない。
それでも人生は続いていくし日々の暮らしに幸せを見出すことが出来るのだなぁ…などと視聴後に色々なことを考えさせられた。
そして『PERFECT DAYS』は1回観ただけでは気付かない伏線とかありそうな気がするので、また改めて観てみたいと思う。